三島の見解

見ると観る、聞くと聴くは使い分けておりません。

【オペラ】ドン・パスクワーレ(2024年新国立劇場)

2024年2月4日(日)14:00公演

新国立劇場オペラパレス

ガエターノ・ドニゼッティ作曲

ドン・パスクワーレ

 

お世話になっております。

三島でございます。

 

 

2月3日の「エウゲニ・オネーギン」(チャイコフスキー作曲)千秋楽公演から「ドン・パスクワーレ」(ドニゼッティ作曲)の初日へ訪問。ロシアからイタリアへ移動です。

 

 

喜劇作品を見るのはいつぶりかと遡りましたら2023年2月に「セビリアの理髪師」(ロッシーニ作曲)を観たのが最後でした。約1年ぶりの喜劇です。オネーギンからドン・パスクワーレは差が大きすぎて朝から変なテンションで活動し昼に劇場へ参りました。

 

 

 

それでは感想いってみよー。

 

 

 

掌握

タイトルロールのパスクワーレさん(ミケーレ・ペルトゥージさん)が強い。

 

 

幕が開き、パスクワーレさんが登場した瞬間から客席全体をつかみにきます。「私の家にようこそ!」と言うかのようなウィルカム体勢。招聘歌手をお迎えするはずなのに何故か招聘歌手に迎えられている事態。目を引くような動きをしているわけではないのですが、存在感の強さで一気に惹きつけます。舞台はパスクワーレさんのお家なのでこのような歓迎体勢で始まるのは楽しいし嬉しいです。

 

 

舞台上にいるときの視線の使い方や動作が客席を意識しており、客席にオペラを見せているというより客席と一緒にオペラを上演しているような巻き込みを感じました。弄ばれる客席です。完全に劇場を支配しています。自分の歌や芝居を客席に届ける完璧な術をお持ちです。何をすれば面白くなるのか、楽しんでもらえるかを理解しすぎているので動きに遠慮ないです。余裕はあるのに遠慮がない。「舞台慣れとはこういうことです。」と言われた気分です。

 

 

第一声が本物のオペラ歌手の声でこの瞬間に勝利を確信しました。体に音が入ってくる感覚は心地よいです。こちらが上手に聞こえるように聞き取る必要がない。席に座っているだけで良い。ありがたいです。

 

 

イタリア語ネイティブ(パルマ出身だそうです)に求めたい母音の明るさがあります。これだけで嬉しい。テノール歌手が一番わかりすいですが、バス歌手でも母音の明るさはあります。声自体の深さと母音の明るさが喧嘩しないのはいつ聞いても不思議です。喜劇でも悲劇でも明るさは維持されたままですが、音楽表現を邪魔することがない。これがイタリア語の正しい音なのだろうな。

 

 

オペラなので歌っていることには間違いないのですが喋っているように聞こえました。これは地声や喉発声という意味ではなく、音楽に言葉が的確に乗っかっており自然に歌えているからだと思います。つまり難しい技です。さすがイタリア語ネイティブといったところです。言葉の自由が約束されるだけで音楽もお芝居も膨らみます。

 

 

音楽に合わせてノリノリのパスクワーレさんが可愛いです。よく踊っていました。1幕のパスクワーレさんのお歌の前奏では管楽器の音に合わせて手に持った彫刻を筆でこちょこちょしているのが可愛かったです。曲の終わりには両手をバタバタさせながら拍手を求めてきました。最大の拍手をお届けしました。客席をものにしていますね。

 

 

3幕冒頭でノリーナの外出に反対しているのに、ノリーナに外出用の豪華なネックレスをつけてあげるのは優しさなのかな。また、3幕最後のノリーナとエルネストの結婚を許可する場面では、二人の間に立って二人が繋いだ手を持っていました。このときの表情には真剣さと悲しさがあり、自分の騙された気持ちと二人の門出を投げやりにできないという気持ちが入り混じっているように見えました。喜劇だからといってただ面白くするのではなく、そのときそのときの感情をどう歌っていくかどう見せていくかが計算されつくされている素晴らしいパフォーマンスでした。

 

 

 

 

ノリーナさん

可愛い。チャーミング。3幕のピンクのドレスと宝石(イミテーションでしょうけど)がとても似合う。

 

 

可愛いので全部OK!

 

 

とは流石になりませんが、でも良い出来だったと思います。お歌に関しては全体的にキンキンする声と高音の硬さはありましたが徐々に声が柔らかくなっていきました。最後までキンキンさは取れなかったのでこれはお持ちの声質なのかなと思います。転がすように歌う細かい音型は軽く柔らかく歌っておりました。聞いていて心地よかったです。フィナーレのお歌の転がり具合が一番よかったです。音が丸く口の中でボールが規則的にバウンドしているような綺麗な転がりでした。

 

 

細かい音型で最後の音が高音の場合、その音だけ悲鳴っぽくなってしまうのが気になります。癖かな?綺麗に上昇していくのに最後だけもったいないです。また、高音の切り方が雑なのも気になりました。急に終わる感じ。予期せずシャットダウンされたような歌い方でした。

 

 

ソプラノ課題曲である登場一発目のお歌は硬さが目立ちました。曲調が変わる前の笑い方が可愛くて歌よりも良い響きでした。その後の歌詞を間違えた気がします。「So anch'io la virtù magica〜」を次の歌詞である「so anch'io come si bruciano〜」と歌っていた記憶です。本人もびっくりしたのか表情が崩れました。大丈夫。ここ日本だから。顔に出さなきゃバレないから。最後の高音の伸びが悪かった。

 

 

パスクワーレさんを騙しているときと素のノリーナの切り替えが客席に伝わるようになればといいなと思いました。お芝居も硬さがありましたね。1幕で手紙を運んできた人に対して「アリガトウゴザイマス!」と言いりんごをお返ししていたのが可愛かったです。来日歌手だからこそできる演出ですね。

 

 

 

 

マラテスタ

前回の同演出公演(2019年)のときはマラテスタさんも海外からお呼びしましたが、今回は日本人のバリトン歌手を起用です。

 

 

 

忙しい役を上手にこなしていたと思います。高音域の行き詰まり感と低音域の響かなさは気になりましたが(良い響きで歌える音域が狭いのかな?)、肝心の中音域でイタリア語を捌いていく部分はとてもお上手でした。イタリア語が忙しい作品なので言葉が前に飛んでこないと聞いていて不安になります。イタリア語を守ってくれてありがとうというところです。

 

 

1幕のノリーナと一緒に歌う部分はまだお互いが遠慮しているように見えたので距離を縮めて絡んでいけたらもっと面白くなると思います。ノリーナと手を繋いでステップを踏んでいるのに視線が指揮者なのでせっかくの可愛い場面が味気なくなってしまいました。ノリーナ越しに指揮を見ることができたらいいですね。立ち位置的に難しいか。また、パスクワーレさんとの場面はパスクワーレさんが動ける方なのでそれを追い越す勢いで動かせたらもっと面白くなりますね。作戦を立てて指示を出しているのはマラテスタなので舞台上の主導権も持てるとより「っぽく」なると思います。このあたりは千秋楽まででのびるでしょう。

 

 

発音に関しては歌っているときは上手ですが、お手紙を読むときは浅くなるなと思いました。パスクワーレさんの母音の深さが素晴らしいので交互に歌うと浅く聞こえますが、イタリア語ネイティブが隣にいなければ問題ないです。これはどうしようもない問題かもしれませんが”o”の母音の深さが全然違うことに気づきました。声種が違うこともありますが、マラテスタも深い発音をしているのですが、パスクワーレさんが隣で同じ”o”が入った言葉を歌ったときの音の深さにびっくりしました。イタリア語の発音って難しいんだな。たかが”o”。されど”o”ですね。

 

 

さらっと外国人キャストに混ざって歌えて悪目立ちしないパフォーマンスができることは素晴らしいです。残りの公演も楽しく素晴らしいものになりますように。

 

 

 

エルネスト

とってもエルネストの声です。第一声で安心しました。お礼を言いたいくらいのエルネストボイス。太い芯はあるけれど柔らかい声でどこにも引っかかることなく劇場全体に声を届けます。お歌の流れも綺麗でほとんど母音の種類に左右されずに声が伸びます。歌っている姿に必死さはありますが、エルネストが頑張っていると思うと応援したくなります。

 

 

2幕のエルネストのお歌ではだんだん高音が詰まってきているように聞こえました。ちょっと歌いづらそうで心配でしたが、3幕のお歌は素晴らしく伸びやかな声が聞けました。2幕の高音に対する不安を帳消しにするような充実感のあるお歌になりました。素直な声が響き渡るのは気持ちいですね。鼻にかかるような部分もありましたがお歌のラインは崩れません。さすがです。

 

 

エルネストだけではないのですが、三人以上で一緒に歌うお歌になると全員が遠慮しながら歌っているのかオーケストラに負けちゃうのが面白かったです。1人だとちゃんと聞こえるのに束になったら聞こえないのは不思議。オーケストラが元気に演奏していたのでそのせいかもしれませんが。この作品は重唱も楽しいので頑張ってほしいです。フィナーレはよかったですが。

 

 

 

合唱団さま

言葉も作曲家も違いますが前公演のオネーギンのときの合唱と比べると楽に歌っているように聞こえました。声の揃い具合も違いますね。全体的に音の安定感がありました。小声で歌う部分は小さい音と厚みのある音が両立することがわかりました。お勉強させていただきました。

 

 

踊らせないけれど突っ立っているだけでなはない。適度なお芝居でお歌に集中できる環境がある。個人的のは今シーズンの「シモン・ボッカネグラ」(ヴェルディ作曲)の演出のようにほぼ背景と化している演出が好きなのですが、合唱団の愉快な感じが適度に楽しめるこの演出も好きです。2厨房の場面でお皿投げている方とキャッチする方が上手すぎて面白かったです。あの方たちはお皿投げのプロですか?

 

 

 

 

以上です。

この演出好きなのでまた観ることができて楽しかったです。

 

 

オペラ全幕観劇はしばらくなさそうです(予定)。

新国ともしばしお別れです。

中村ヴィオレッタの帰国を待ちます。

 

 

とりあえずパリ・オペラ座バレエを全力で楽しめるように体調に気をつけて生活します。

(オニールさんが日本入りされましたね。おかえりなさい。)

 

 

 

 

終わり。

 

指揮:レナート・バルサドンナ

演出:ステファノ・ヴィツィオーリ

ドン・パスクワーレ:ミケーレ・ペルトゥージ

マラテスタ:上江隼人

エルネスト:フアン・フランシスコ・ガテル

ノリーナ:ラヴィニア・ビーニ

合唱:新国立劇場合唱団

演奏:東京交響楽団