三島の見解

古の女子高生

【オペラ】カヴァレリア・ルスティカーナ/道化師(荒川オペラシリーズ)

2024年3月15日(金)18:00公演

日暮里サニーホール

荒川オペラシリーズ第67回公演

ピエトロ・マスカーニ作曲

カヴァレリア ルスティカーナ

ルッジェーロ・レオンカヴァッロ作曲

道化師

 

 

お世話になっております。

三島でございます。

 

 

この日はヴェリズモオペラとしてお馴染みの「カヴァレリア・ルスティカーナ」と「道化師」の二本立て公演の観劇に行って参りました。

www.acc-arakawa.jp

 

 

 

では感想いってみよー。

(以下全て敬称略)

 

 

劇場と概要

劇場は日暮里にあるホテルラングウッドの4階にあるホールでした。キャパは最大約400名とそれなりの大きさです。客席も7割は埋まっていたと思います。思ったよりも集客ができている公演なんだなと思いました。備え付けのいわゆる劇場のイスが設置されているのは後方のみでこちらには段差がありますが、前方は会議室や病院の待合室にあるようなパイプ椅子の上位転換のようなイスでした。段差もありませんでした。ここだけみると体育館みたいでちょっとちゃっちいですが、全体をみると立派な劇場です。

 

 

声やピアノが響きにくい劇場なので反響がないぶん無駄に力んだり、音を強く出したりしてしまう危なさがあるな、と思いました。ピアニストはそのあたりも熟知しているのか、余裕あふれる演奏でがっちり舞台を支えていました。ピアノ伴奏の全幕公演にある程度の抵抗感があり、オーケストラがいないことによる満足度の低さを心配しましたが、特に問題なかったです。もちろんオーケストラ伴奏で聴けるとに越したことはないですが、作品の魅力を十分に引き出す雄弁な演奏と頼りがいのある技術で舞台の立体感に一役をかっていました。作品を選ぶとは思いますがピアノ伴奏でも聴けるものですね。

 

 

歌手個別の感想はこの後別で書きますが、全体の印象としては歌手は予想通り力みがちの歌唱となっておりました。環境がよろしくないところで歌うといかに基礎が根底がしっかりしているかがわかります。

 

 

作品で歌手のクオリティに大きな差がありました。道化師チームは一応オペラ歌手としてのパフォーマンスを披露してくれましたが、カヴァッレリーアチームは学生レベルだったというのが正直な全体の感想です。道化師はオペラをオペラとして公演するラインには届いておりましたが、カヴァッレリーアはただ歌っているだけでした。譜面から音を起こしたところで終わっている。二本立て公演ではなく道化師チームの公演の前座のカヴァッレリーアチームみたいになってしまったのは残念です。カヴァッレリーアチームの方が若手だったのかな?フレッシュとベテランみたいな?事情は知りませんが、二本立てなら同じくらいのクオリティでお願いしたいです。

 

 

合唱は区民の集まりなのでしょうか。みなさんが楽しんでお芝居されていたりお歌を歌っている姿はとても素敵でした。手の込んだメイクや髪型は舞台にかける思いが伝わります。純粋に正面から向き合っている姿が美しいです。芝居はとてもお上手です。歌唱面でのことを言えばキリがありませんが技術的な目標を持って歌っているわけではないと思うので差し控えます。

 

 

では作品ごとの歌手の感想を簡単に書いて終わります。

 

 

カヴァレリアチーム

 

サントゥッツァ(古志祐香)は完全な喉発声でした。声に芯がないのでお歌が安定しない。喉だけの発声のせいでコントロールが行き届かずほとんどの音がハマってない。だいたい低い。中音域で喋るように歌う部分は母音が短く無駄にリズミカルになってしまっていた。母音の長さが保てないことはほとんどの日本人歌手の課題ですね。すぐに次の子音がやってくる気持ちはよくわかる。

 

高音は広げて出すようなことはしないし声が出ていないわけではないけれど、喉発声のせいで頼りない声が弱々しく聞こえるくらいで美しくなかった。天井が低いまま無無理矢理高い声を出すから天井の重みで声が伸びないし音が潰れる。ほとんど出番はなかったが低音域に関しては良いポジションで歌えており、ソプラノによくある押し出すような歌い方はせず力が抜けた状態で歌えているように聞こえた。この技術を持っていることを考えるともっと歌える人なのではないのでしょうか。口角が常に横に開いているのもお歌が安定しない原因の一つですね。

 

 

とんでもない口の開き方でなぜか上手に歌える歌手もいますが、まあ忠実に守っていく方が近道な気がしますね。

 

 

トゥリッドゥ(内田吉則)は舞台袖から歌っていた最初の最初の曲(「O Lola ch'ai di latti la cammisa〜」)は何を言っているのか、何を歌っているのかわからない仕上がりでしたが、実際に舞台にでてくるとまあまあ聞けるお声とお歌ではありました。口周りに無駄な力がないことはサントゥッツァという明確な比較対象がいることでわかりやすかったです。後半にいくに連れて安定感が増してきたのはよかったです。しかし、小さい声で歌う部分ではただの小声になってしまいました。響かないのは劇場のつくりも関係していると思いますが、根底の発声技術が足りない気がします。小声で響かせることができるかはオペラ歌手の技量がよくわかる部分ですね。お持ちの声は良いと思いますが、それだけにならないように頑張ってほしいです。

 

 

アルフィオ(寺西丈志)もお持ちの声は良いです。明るい声です。ただ声だけが先行してしまい完全なるのど自慢大会が開催されていた。声を無駄に広げて歌っている印象。もっと焦点を集めて歌った方が良い。フレーズの流れがないので、音ごとにボコボコしてしまい良い声では解決できない感じになってしまった。

 

 

ローラ(高津有里)はとても上手でした。この役だけだと歌手としての魅力がわからないから他でも出会いたいですね。

 

 

で、問題はなぜ芝居ができない人たちがこの作品をやっているのか?ということです。芝居要素大事じゃね?トゥリッドゥ(内田吉則)はまだ動けていた方ですが、他キャストは歌うのに精一杯というところです。物語を知っているし字幕もあるので内容は分かりますが、音楽と舞台上が一致しないことをどう受け入れればいいのか分かりませんでした。

 

 

 

 

 

道化師チーム

素晴らしい歌手が一人いました。カニオを歌った新後閑大介です。正直このレベルの歌手がこの公演に出演しているとは思っていなかったので驚きと感動で踊り出しそうでした(迷惑)。久しぶりに本物に近いオペラ歌手に会いました。

 

 

プログラムのプロフィールを拝見する限りイタリアのご出身ではなさそうですが、イタリア語ネイティヴに求めたい母音の明るさを持っていました。なぜ?イタリア人しかできないと思っていたのにこの人はできている。後天的に得られるものなのか。どうやって習得したのか是非伺いたい。母音が明るいことによりイタリア語がクリアに聞こえます。決してネイティブ発音ではないですが、音に乗っかる母音のはまり具合が心地よいです。

 

 

口の中の空間が広いことがわかる歌い方です。よく開いている声です。「i」の母音はかなり硬めだけれど口の中に空間の余裕があるから声が詰まるように聞こえないし平べったい音にもなりません。口の中の広さがあればある程度の発音のブレは誤魔化せるのだと学ぶました。日本人の課題「u」の母音は単語によってばらつきがあり深いときと浅いときがありました。「u」のクオリティが上がればさらにイタリア語の響きがよくなると思いました。

 

 

また、発声元が口ではなく鼻上というか眉間あたりの位置になり、いわゆる顔面に声を当てて歌うことができている方でした。この発声方法を言葉のまま顔面に当てるように歌うだけだと、ただの顔面衝突事故になりキンキンした声になってしまうだけですが、新後閑大介は上で書いた通り、母音の明るさと口の中の広さがあるので眉間から声を出すように歌っても衝突事故にならずにほしい響きを出せていました。聞いている側が気持ち良いくらいの声の通りと響きと深みでした。

 

 

歌唱に余裕があるからかお芝居のクオリティも高いです。カニオの葛藤が音楽によく乗っていおり、芝居と音楽の相乗効果を歌で届けるということができていました。素晴らしいです。芝居掛かった歌い方をしても無理がなく、響きが落ちることもないので安心して聞けます。だんだん舞台上にいないことに不安になってきていしまい、カニオがずっと歌っていればいいのに、と思ってしまいました(話変わる)。気迫があるお芝居が最高に良かったです。後、殺し方が上手だった。プロフィールを読むとレパートリーのよう(以前に歌った経験がある)なので慣れもあるかもしれませんが、素晴らしい仕上がりでした。ありがとうございました。

 

 

是非オーケストラ伴奏の全幕オペラでお会いしたいです。プロフェッショナルなキャストに囲まれた時にどこまでパフォーマンスができ、上手な人が隣にいる状態で引け劣らないか聞いてみたいものです。

 

 

 

ネッダ(宗田舞子)は日本人ソプラノのとしては珍しく中音域のラインと綺麗がありました。中音域に無理がなく発音と発声が両立しているお歌を聞けるのは嬉しいです。しかし高音域はピャーピャー系でした。中音域の安定感はどこへ?高い声が出ないわけではないけれど、とりあえず音を出しているようなレベルの歌い方でした。カヴァッレリーアチームのサントゥッツァよりは上手ですが。比較するのもよくないよね。「鳥の歌(Stridono lassù)」は本当に歌っていたのか不安なくらい中身がなかった。歌ってなかったのかもしれない。高音を伸ばすときに体のポジションを決まった位置にしないと出ないのか体勢を固定してから歌うのでその部分だけリサイタル形式になってしまうのは作品を壊しているしせっかく動ける人(芝居が上手)なのにもったいないですね。

 

 

残りのキャストもややのど自慢大会ではありましたが、よく動ける方たちだったので見ていて楽しかったです。

歌が上手な人を動かすより、動ける人の歌を向上させていく方が早いと思っているので、これからも頑張ってください。

 

 

 

以上です。

 

 

カニオが本当に上手だった。

ありがとうございました。

 

 

 

おしまい。