三島の見解

古の女子高生

その2【オペラ】シモン・ボッカネグラ

 

2023年11月15日(水)19:00公演

新国立劇場オペラパレス

ジュゼッペ・ヴェルディ作曲

シモン・ボッカネグラ

 

お世話になっております。

三島でございます。

 

 

 

新国立劇場オペラ公演の感想文その2です。よろしくお願い致します。

 

 

 

先ほど気づいたのですが、初日に行われていた荷物チェックは天皇陛下の御鑑賞に伴うものだったのですね。

係の方の対応が丁寧すぎて逆に恐縮してしまった。

 

アメーリア

男性陣をイタリア出身者でほぼ固めた結果、ロシア人であるアメーリアの中の人のわかりやすすぎるロシア人発音が目立っていた。日本人がよくなる平べったい発音とではなく全ての音が曇っているように聞こえる。口の中の空間は感じられるので不快ではありません。ただ右もネイティブ左もネイティブだと発音の違いが目立ちますね。イタリア語には聞こえますが特徴的でした。世界的ディーヴァのアンナちゃん(アンナ・ネトレプコ)のおかげでロシア人もイタリア語発音に慣れている人多いから問題ないよね(?)。

 

 

 

出だしから終幕まで中音域が安定しなかった。第一声はお持ちの声が暗いのか、音が安定していないのかわからない感じでちょっと心配になった。その一方で高音域のハマり具合は素晴らしい。淀みないクリティカルヒットかましまくる。高音域で声量を落としつつ響かせる(いわゆるpianissimo)ことができる方で、ソプラノの高音のpianissimo最高だな、と再認識。

 

 

 

舞台上の姿も美しく、無理のないお芝居が良い。シモン総督に自分の身の上を打ち明けてる苦しそうな表情やパパが判明して嬉しいが喜びきれないような複雑な表情もどれも良い。3幕の結婚式の装いで登場し、フィエスコを見つけたときのパッと花が咲くような嬉しそうなお顔と、シモン総督の死に際にシモン総督が見ている方向を一緒に見つめたり(なんかここがツボ)、体を支えたりと献身的な「優しい人アメーリア」のお芝居も良い。終幕の幕が降りる間際にガブリエーレと抱きしめ合うのがまた良い。早すぎず遅すぎずでタイミングが素晴らしい。

 

 

 

マリアの死体の位置とアメーリアの登場の位置が同じなのがわかりやすくていい。仮にマリアとアメーリアの関係性がわかってない人がいたとしても匂わせで伝えることができる。

 

カーテンコールで投げキスを1回から最上階まで届けるような仕草が可愛すぎた。

 

 

シモン総督

イタリアのローマの出身者だそうで。とにかく目力が強い。

 

 

 

プロローグと25年後の時の経過を上手に表現できるものだ。プロローグの総督任命で虚無顔で担ぎ上げられたことが嘘のような1幕以降の総督ちゃんとやってます感。この手のつくり込みが得意なようで、服毒後に体調が悪くなっていく部分や、3幕で死に際の声がどんどん遠くなっていく感じ(声量をだんだんと落としている)が死に向かって歩いているような感覚が伝わり、じわじわと効いてきた毒が命を仕留めにいく様子を感じられてよかったです。声量を落とすけれど発声には全く影響せず、吐息混じりのような歌い方なのになぜ響かせることができるのか聞いてみたいものです。発音も発声も安定している声量もあるので落ち着いて楽しめました。ガタガタ歌唱だとこちらもガタガタする。

 

 

 

 

マリアの死体を発見し、顔をみた後にヴェール(顔にかかっていた布)を戻すときが雑で、大切な女性の顔にかけるのに片手なのは面白かった。ここのオーケストラはもっと悲しみを煽って欲しかったのですが、やりすぎるとプッチーニ先生が登場しちゃうのかな。

 

 

 

2幕のアメーリアとガブリエーレと3人でのお歌うとき、お歌の最後の方で3人がそれぞれ舞台前方に向かって歩いてくるのですが、全員がカッコ良すぎて戦隊モノの集合場面かと思った。歩く動作だけなのにただ歩いているだけにならず、迫力があった。歌詞に重みが加わった。お歌が終わった後、シモン総督のガブリエーレを見る目が力強く、アメーリアとこの先の未来を託しているように感じた。

 

 

 

タイトルロールとして最高のお仕事をしておりました。これが初日とは恐ろしい。

パオロ

パオロはボローニャご出身の方。

 

 

 

お歌のレベルは他イタリア人と比べると劣りますが素晴らしいことに変わりはない。ただ、イタリア人の朗発音が聞けなかったのが悔しいくらい。でもパオロ役が良く似合っている。小悪党感が良い。3幕で血まみれで登場し、フィエスコと会話しているときの諦めと吹っ切れが良い。

 

 

 

ガブリエーレ

素晴らしい。

以上です。

 

 

 

歌手全員が素晴らしかったけれど特に素晴らしかった。イチバンです!本物のイタリアンテノールの明朗発音。イタリアオペラでイタリア人に求めたいもの全部持っている。感謝。アルフレード歌って。1人だけマイクつけているのかなと思うくらいの声量で舞台上の立ち位置に左右されずに声が客席に届く。喉や口周りや口の中の空間が普通の人の8倍はあるかと思います(?)。力みそうな音もまろやかに仕上げます。とにかく母音の音が明るい。でも暗い場面にも馴染む声でもはや理解が追いつかない。

 

 

 

他のイタリア人歌手の役とは違い、若さをアピールする必要があるのと思いますが、殺気だっているところや対アメーリアの時のもろさ(優しさ)の変化がわかりやすく良い役者でもあるなあ、と思いました。3幕で総督に後継者と指名され舞台の真ん中に移動し総督の装飾を身につけるも、終幕間際でアメーリアの方へ向かい抱きしめ合う。いやここマジで良いよ。こっちの感情が爆発しそう。

 

 

 

明るい声のガブリエーレとくぐもったような声のアメーリアの声が重なるときが幸せだった。全く違う声質ながらも相性が良いな、と感じました。互いを邪魔せずも溶け合いすぎずな塩梅が最高!アメーリアの声を包み込むようなガブリエーレのお声(と発音)が心地よい。合わなそうなお声でも良い効果が生まれることがわかった。

 

 

2幕でアメーリアとシモン総督の仲を疑っている最中の「」の歌い方が切なくて苦しくてずっと聞きたかった。その言語を操れる歌手にしか出せない言葉の密度があった。その後、2人の関係性の真実を知ったときの「Suo padre sei tu!!」の3段活用が素晴らしかったですね。1回目は大きな声でただ驚き、2回目は独り言のように小さい声で、3回目はアメーリアに向かって1,2回目よりも優しい声色で歌ってました。この活用は素晴らしいです。全オペラ歌手が参考にすべき。

 

 

以上ですー。

フィエスコの感想がない。あれ?

 

 

 

 

良い歌手が揃っているとお歌が上手なことが当たり前になるので歌唱面での感想が減ります。

当たり前に上手って本当に贅沢です。

ただ、別更新の感想で書きましたが、これを日本のオペラ公演の成功体験にしない厳しさが今は必要です。

国立の劇場が招待した外国の団体の公演くらいに思っておきましょう。

 

 

新国はこれで年内最後かな?

こうもりはとりあえず予定していない。

年明けたらオネーギンかあ。

中村恵理(敬称略)ヴィオレッタに会える日が近づいてきている。

 

終わり。

 

指揮:大野和士

演出:ピエール・オーディ

シモン・ボッカネグラ:ロベルト・フロンターリ

アメーリア(マリア・ボッカネグラ):イリーナ・ルング

ヤコポ・フィエスコ:リッカルド・ザネッラート

ガブリエーレ・アドルノ:ルチアーノ・ガンチ

パオロ・アルビアーニ:シモーネ・アルベルギーニ

ピエトロ:須藤慎吾

隊長:村上敏明

侍女:鈴木涼子

合唱:新国立劇場合唱団

演奏:東京フィルハーモニー交響楽団

共同制作:フィンランド国立歌劇場、テアトロ・レアル