三島の見解

古の女子高生

【リサイタル】中村恵理ソプラノ・リサイタル

2024年1月7日(日)15:00公演

秋篠うたくらぶニューイヤーコンサート

秋篠音楽堂

中村恵理ソプラノ・リサイタル

お世話になっております。

三島でございます。

 

 

この日は数少ない日本人の本物のオペラ歌手である中村恵理さん(以下敬称略)のリサイタルに行ってきました。場所は奈良県奈良市の秋篠音楽堂さんです。奈良ファミリー6階にあります。最寄駅はとんでもない本数の電車を捌いている近鉄大和西大寺駅です。音楽を聴きに奈良県を訪れるのは初めての経験で、午前中は鹿さんに遊んでもらい午後は劇場に行くというなんとも最高な日になりました。

 

 

 

奈良公園の木々は目を凝らしてみると蕾を見つけることができ早くも春の訪れるを見ることができました。奈良公園は四季を楽しむのに優れている日本の土地の一つだと思っております。鹿さんの換毛期やバンビちゃんたちの誕生も季節感を味わえますね。新幹線もホテルも奈良公園周辺もたくさんの人がおり、観光客が戻ってきたことを肌で感じました。日本人も外国からのお客様もたくさんいました。鹿さんたちもお腹いっぱい鹿せんべいを食べれているようです。観光客が多いところにいる鹿さんにはせんべいを拒否されました。

 

 

奈良公園の感想はこのあたりにしてリサイタルの感想にいってみよー。

 

プログラム概要

二部構成で第一部が日本語・イタリア語・ドイツ語の歌曲。ドイツ語は私の大好きなリヒャルト・シュトラウスおじいちゃんの歌曲を披露されました。今回はブレンターノの詩の歌曲でしたが、他にもNHK交響楽団との共演や過去の自身のコンサートなどでもシュトラウスおじいちゃんの歌曲を歌われているようで嬉しい限りです。好きと好きが合わさる演奏会って嬉しいですよね。中村恵理とシュトラウスおじいちゃんという組み合わせは奈良まで行って聴く必要がある。お召し物のドレスはゴールドを基調とした袖ありのタイトめのロングドレス(年末の第九で着ていた)でした。肘の位置くらいまでスリットが入っており、一般ピーポーが着ると「破れちゃったの?」となりますが、舞台上でパフォーマンスできる人が着ると様になりますね。

 

 

 

第二部はオペラアリアを歌われました。ワーグナー先生の「殿堂のアリア」(タンホイザーより)以外は全てイタリア語の作品からでした。こちらでは白いAラインのベアトップドレスにお着替えをされました。トップス部分のキラキラとボトムス部分の花っぽくくしゅくしゅしている装飾が可愛かったです。伴奏者も合わせてベアトップドレスにお着替えしてました。

 

 

アンコールは3曲。うち2つがオペラアリアの披露で、ヴェルディ先生の「Caro nome」(リゴレットより)、プッチーニ先生の「Quando me'n vò」(ラ・ボエームより)。最後の1曲はオペラアリアではなく「Non ti scordar di me」を披露。もはや第三部である。レオンカヴァッロ先生やプッチーニ先生のお歌を歌った後に「Caro nome」を第一部のイタリア古典歌曲を歌ったときのような歌い方で軽やかに歌いました。並の歌手だと疲労で発声がとっ散らかるところですが、丁寧に丁寧に歌います。想像以上に自由に歌える人である。ソプラノアンコール課題曲の「O mio babbino caro」ではなく同じ作曲家の「Quando me'n vò」を歌唱。最高音出ればOKみたいな風習があり高音飛ばし大会に参加したいソプラノ歌手がよく歌っている印象ですが、中村恵理は出だし部分だけでなく、間の記憶から薄れがちな「Ed assaporo allor 〜」もしっかり歌っていました。可愛く表情豊かにムゼッタの愛らしいキャラクターが伝わります。最後の「〜senti morir!」の部分で高音で力尽きずに、最後の音まで丁寧に歌われていたのが印象的です。数年前の藤沢市民オペラはミミではなく、ムゼッタを歌ってくれてもよかったのではないかと思いました。最後の「Non ti scordar di me」はとても思いがこもっているように聞こえました。どの曲にも思いはこもっていましたが、この曲では「このリサイタルを忘れないでね。」と言われているような気持ちになりました。私は死んでも覚えています。忘れられるわけがないし客席にいた皆様も同じ気持ちであると心から嬉しい。

 

 

ベルカント商法

アンコールの感想を先に書いてしまいましたが、第一部に戻りましょう。

最初の3曲はイタリア古典歌曲からの選択です。

 

 

「Nel cor pi non mi sento」

「Caro laccio」

「Se tu m'ami」

 

 

 

プッチーニ先生をばちばちに歌うような歌手がこの曲どもを歌うと正しい発声が何処かにお出かけしてしまっているので(断定はよくない)事故が起きると思います。プッチーニ先生のお歌が適当な発声でも歌えるという意味ではございません。ただ、ベルカント商法唱法から離れている方たちにイタリア古典歌曲は難しいという話です。譜面的な話ではなく、正しい発声、正しい音符の長さ、正しい音楽のラインを徹底して守らなければボロが出るからです。つまり誤魔化しが効かないよっていうことです。壮大なオーケストレーションはないし大きな感情表現もない。そもそもオペラ歌手の演奏会でわざわざイタリア古典歌曲を取り上げないですよね。かなり珍しいかと。オペラアリアで茶を濁そうぜ!

 

 

 

中村恵理は蝶々夫人もミミも歌うのでベルカント唱法から離れている歌手だと認識しておりました。しかし、中村恵理、ちゃんと綺麗に歌うのです。ちゃんと綺麗に歌うってなんだかわからないですね。具体的に書くと、フレーズの流れが綺麗で音や単語単位でボコボコしない。重くつくったり声色を調整したりしない。という感じです。

 

 

1曲目(「Nel cor pi non mi sento」)の出だしの声がとても軽やかでした。勝手に重い声をイメージしてしまうのですが、芯が太い軽い声で安定感と輝きがあってとても心地良いです。最初の方の細かい音符である「〜la gioventu」の正確さと軽快さがとても良かったです。イタリア語の発音は隣にイタリア語で育った人という比較対象がいない限りは良く聞こえると思います。比較対象がいるとちょっと奥の方で発音しているように感じると思いますが、歌詞は聞き取れるので特に問題はないです。母音に左右されることがほぼなく、言葉に影響を受けて音が潰れることや喉声になるようなこともありませんでした。イタリア古典歌曲と発音の品質はセットだなあ、と再認識しました。唯一気になったのが低音域以外の「o」の音がぼやけるところですね。浅いというより浮いているというのがしっくりきます。アクセントの有無で使い分けているようにも聞こえず。癖なのかな?これもイタリア古典歌曲を歌うからこそ気になるところですね。

 

 

 

2曲目(「Caro laccio」)は「son contento e prigionier」部分の適切な母音の伸ばし方が良かったですね。油断するとお経になるからな。ソンコンテントエコンテント。子音と母音の結びつきってとても難しいなあ。譜面を見ているだけではわからないので実際の歌唱で教えてくれる歌手がいることはとって大変ありがたいことだと思います。

 

 

 

3曲目がご自身に一番合っているのでないかと思いました。「Ma se pensi〜」の高音ジャンプが美しすぎて泣いてしまった。時差なく正しい音に移動する。なんだこれは。高音を出すたびに私の心臓が浮く。ジェットコースターの急落下の状態に似ています。ドキドキする。同じく「Ma se pensi〜」の溜めも良かったです。

 

 

多くの声楽学習者(趣味も含む)が最初に出会うのがイタリア古典歌曲なので、自身が学び始めに勉強した曲も含まれていると思いますが、ただの思い出の振り返りにならずに、キャリアを積んだ今だからこそできる歌い方をしているように見えました。この3曲がこんなに立体的になるのだなあ、と。新国立劇場「椿姫」のときにも思いましたが、譜面から音楽を起こす力も相当持っておりますね。必ずしもドラマチックに歌う必要はないけれど、ただ歌うだけではカラオケ大会になってしまう。ベルカント商法関係者はもしかしたら過剰表現というかもしれません。その場合は、過剰表現ができるほど歌える人なので、と言いましょう。私は好きです。素晴らしい体験でした。

 

日本歌曲

個人的に日本歌曲は誰が歌っても好きになれなくて、なるべく関わらないで生きていきたいと思っております。事前告知のポスターには記載がなかったのでプログラムを見て驚きました。日本歌曲を歌うイメージがなかったので自分のリサイタルで選ぶのかあ、と思いました。

 

日本語の「ん」の発音以外は良かったと思います。オペラ歌手が日本歌曲を歌うと響きや発声を意識しすぎて、イタリア語みたいな発音になります。もちろんイタリア語と日本語の発音が全然違うとはいいません。ですので、悪くはないのですが、日本語の発音をあまりにも放棄しすぎじゃないか?と思うことが多いです。で、今回の中村恵理の歌唱は正しい日本語の発音を崩壊させずに歌っていたので好感が持てました。「日本語に聞こえる」のではなく日「本語が聞こえる」のです。ただ平べったくなりすぎるのは避けているようで、発声と発音を両立できるあたりは良い勉強をしたのだなあ、と思います。もし天性のものならそれは素晴らしい才能です。ただ「ん」の発音だけは鼻にかけすぎというか「ん」だけ妙に浮くなあと思いました。発音的にはあっているのだけれど悪目立ちするというか。難しい。

 

 

日本歌曲からは

「かやの木山の」

曼珠沙華

の2曲を歌われました。

 

 

曼珠沙華」は中村恵理と合いますね。表現力が爆発していた。彼岸花というと赤色を思い浮かべますが、どちらかというと黒ですね。黒い彼岸花って存在しない?重い曲に仕上がっていました。もはや怖いくらいです。「ちょうどあの児の年の数」部分の耳を塞ぎたくなるような苦しさがありました。歌詞と声がマッチしますね。さっきまでのベルカント唱法を引き連れながらさらにドラマチックにといったところです。表現力が素晴らしいです。

 

 

 

とりあえず第一部途中までの感想。

この後、別更新で残りの感想を書きます。

 

 

 

鹿さん可愛い。

ソプラノ:中村恵理

ピアノ:木下志寿子