2024年1月27日(土)14:00公演
東京文化会館大ホール
藤原歌劇団公演
シャルル・グノー作曲
お世話になっております。
三島でございます。
この日はグノー先生のオペラ作品であるファウストを観に東京文化会館に参りました。
ファウストは好きなオペラの一つです。音楽が怖かったり可愛らしかったり厳かだったりと多彩な部分とマルグリートちゃんの救いのなさが良いです。最終的に救われるけど。
それでは感想いってみよー。
オーケストラとバレエ
オーケストラピットにいらっしゃるのは東京フィルハーモニー交響楽団さん。派手さや面白みは少ないですが、スタンダードをスタンダードに遂行する力はあります。
お歌の感想はこの後書きますが、この公演はオーケストラの演奏に救われました。全幕を通してしっかり音を出していた印象。テンポ感に疑問を思う部分があったり、全体を通してドラマチックさには欠ける音楽づくりではあったけれど、歌手が舞台上でどんちゃん騒ぎをしていたことに対して、舞台上の影響を受けずに自分の仕事をしていました。
2幕のお兄ちゃん(ヴァランタン)のお歌の前奏はイマイチでした。何を始めたのかわからない。その後のメフィストフェレスのお歌の前奏はとてもかっこよかったです。しっかりはっきり出てきた音がこの曲の面白さのアピールになっておりその波に歌手も上手くに乗ることができていました。綺麗に下地をつくってくれているな、と思いました。
3幕マルガリータのお歌(「トゥレの王」)の前奏の入りはテンポが早くて驚きましたが、歌に入る前の溜めの効果を狙ったのかなと思いました。その後、宝石を見つけたときの音はあまり主張がなかったので寂しかったです。舞台上の歌手の声量と合わせた音量だったのかもしれません。私の大好きな「je ris de me voir Si belle en ce miroir!」の後の下降音型が本当に素晴らしかったです。下降だけれど上に上がっていくような華やかな音に感謝。フルートさんありがとうございます。ここがこの日のハイライトです。
5幕のバレエ場面(「ワルプルギスの夜」)はオーケストラさん頑張っていましたね。バレリーナさんたちの踊り自体はよかったですが、振り付けの単調さや意図する内容の安直さに面白みがありませんでした。難しいことをやってほしいわけではありませんが普通すぎるのも良くないですね。難しいところです。歌手が事故につぐ事故だったことを思うと、ここでバレエ場面までわちゃわちゃされると危険すぎるので結果オーライです。
フィナーレはもっと厳かで神秘的に演奏したほうがよかったのではないでしょうか。舞台上に女性合唱がわらわら出てきたとこもあり、厳かというよりスーパーハッピーフィナーレのようでした。
合唱
新国立劇場の合唱団を上手と思いつつもここと言うポイントがなく、良いところはどこなのか考えていることもありましたが、藤原歌劇団の合唱を聞いたことにより新国立劇場の合唱団の上手さがわかりました。比較対象がいないとわからないと言うところはとりあえず置いておきます。
藤原歌劇団の合唱は全員が真っ直ぐ前に声を出しているように聞こえます。直線なので声が広がらずに数メートル先に落下するような歌い方です。もちろん合唱なので束になることにより声量はありますが良い響きになりません。また、ハーモニーがなくそれぞれが好きなように歌っているように感じます。合唱という団体ではなく、合唱にいる「俺」の声をどこまで届けるか、という試合のようでした。その点合唱団の一員として合唱を行うことができるのが新国立劇場の合唱団ですね。藤原歌劇団の合唱はソプラノ・テノールはそれでもまだ聞こえますが、低音域担当の方々はお留守にされることが多いみたいで声が聞こえません。
舞台自体は広いのですが、合唱が動ける範囲が狭いので常に群がっているのも気になりました。広く使えば良いのに。2幕にちょっとした踊りの場面があり、ぎこちないペアダンスを見せてくれました。こういうのがイマイチなのは新国立劇場も一緒だね。
4幕のお兄ちゃん帰宅の場面。兵士たちの行進の手のばらつきがとても気になりました。兵隊さんなので揃えた方が良い。そんな難しいことではないと思うので綺麗に合わせましょう。しょうもないところなんだけれども、こういうところに気を配れると舞台の完成度が地味に上がると思います。
演出
新演出だそうです。幕が開いて思い出しました「藤原歌劇団お金ないんだった(推定)」と。昨年の「二人のフォスカリ」に続きお金ない演出です。ただ今回は衣装はしっかりとしたつくりに見えました。触ってみたらペラペラな可能性ありますが。
舞台上には大きい3枚のスクリーンがあり、色々な写真を映して舞台背景としておりました。スクリーンの活用は便利なのだろうけれど、一気に安っぽくなるから別のところで舞台のクオリティを上げる必要が出てきますね。スクリーンに色々映し出されることを確認しただけなので特に感想はないです。このスクリーンが舞台装置になり扉の役割や部屋の役割も果たしていました。
歌手全員
とってもとってもカラオケ大会でした。オーケストラ付きのカラオケ大会っていいなあ。
歌手全員の声が喉にへばりついているように聞こえました。全員が喉に力をかけて歌っているようで高音を出したり強く歌うことはできても抜けるような声はありませんでした。客席に声を届けることはできていると思いますが届いているだけで全くもって良い響きではありません。頑張って思い出しても良い声だった人も音もないです。
メフィストフェレス役のアレッシオ・カッチャマーニさん以外にいえることですがフランス語が不明瞭です。私自身、フランス語は何とかオペラや歌曲が聴けるレベルにしかできないので詳しいことを言える立場にはありませんが、アレッシオさんだけ子音がはっきり聞こえるな、という印象を持ちました。子音が飛ぶというのでしょうか?単語と文章の切れ目がわかる発音でした。残りの方たちは終始言葉がモゴモゴしていてフランス語という前提で聞いているのでフランス語に聞こえますが前提がなかったらわからないと思います。モゴモゴフランス語部ですね。私も多分そのレベルだから入部しよう。
以下歌手個別にしたかったのですが、この投稿ではファウストのみ。
残りは別更新します。
ファウスト
好き勝手に歌い後半はほぼ高音が出ずも拍手をもらえる幸運な方です。
1幕出だしから声は怪しい。
・母音によって声質が変わる
・「i」の母音が固い
・全力で喉声
全幕通して上記の通りです。3幕以降は
・高音でない
が追加されます。上三つだけならよくある話でもあるので、テノールあるあるだなあ、と思って終わりにできなくもないですが、四つ目はちょっと厳しいですね。正しいポジションで高音が出ないのではなく、声になってないのです。本当に出ないのです。音がないのです。一大事です。
原因は根本の発声方法がよろしくないことによるものでしょう。基本的に押し出すように歌い高音も何も考えずにビャービャー叫ぶ。声量を段々大きくしたいときに口で操作している(=口回りに力が入る)。全部が喉から出ている。「お腹から声を出す」という具体的なようでスーパー抽象的な表現がありますが、ちょっとだけその意味がわかりました。お腹がお留守は危険。まだなんとかなっていた1・2幕で発声ポジションを正しい方向に修正できていれば、声がでない事態は避けられたかもしれません。力技で出しているので相当の負担が喉にあったはずです。あんなに大きな会場で。疲労です。
3幕の見せ場のお歌はひどいもので何が何だかわかりません。拍手とブラボーをもらえているのが謎です。その後、他の歌手と一緒に歌う場面では中音域はかき消され、本来目立つであろう高音域で存在が確認できない事態に陥っておりました。
1幕でファウストはメフィストフェレスと取引をし若返りますが、若返ってないんだよね。マルグリートも若くみえないので若い男女というよりもっと上の年齢の不倫カップルに見えるんだよね。あれ?読み替え演出なのかな?プログラム読まなきゃ!
今回は2回休憩があったので遅くても2回目の休憩までに代役を用意し交代する必要があったと思います。声が出てないのです。つまり仕事ができていないのです。裏事情はわかりません。代役がいなかったのか本役が譲らなかったのかわかりません。ただこのレベルで歌えない場合は劇団が然るべき措置を取るべきだったと思います。代役もしくは舞台袖から代役が歌い演技本役で行うなど。(そんなことあるのか?)歌手の実力発表会ではありませんので。作品にもお客さまにもよろしくないのでは?冷静な判断を何卒お願い致します。(芸事の世界だからよくわからないけれど一般企業だったら責任問題な気が?する?)
残りの感想は後日に別投稿にて。
終わり。
指揮:阿部 加奈子
演出:ダヴィデ・ガラッティーニ・ライモンディ
ファウスト:村上 敏明
メフィストフェレス:アレッシオ・カッチャマーニ
マルグリート:砂川 涼子
ヴァランタン:岡 昭宏
シーベル:向野 由美子
ワグネル:大槻 聡之介
マルト:山川 真奈
合唱:藤原歌劇団合唱部
バレエ:NNIバレエ・アンサンブル
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団