三島の見解

古の女子高生

その2・2回目【オペラ演奏会形式】エレクトラ(東京春祭2024)

2024年4月21日 (日)15:00公演

東京文化会館大ホール

東京・春・音楽祭

リヒャルト・シュトラウス作曲

フーゴ・フォン・ホーフマンスタール台本

エレクトラ(演奏会形式)



お世話になっております。

三島でございます。

 

21日のエレクトラの感想その2です。

(その1はこちら↓)

mishimashikahika.hatenablog.com

18日公演との比較が入ります。

(18日の感想文はこちら↓)

mishimashikahika.hatenablog.com

よろしくお願い致します。

(以下全て敬称略)

 

エレクトラ

出だしの”Allein!”の声は相変わらず小さい。しかし冷気が流れこむような声が歌詞の通りひとりぼっちの悲しさをアピールします。全体を通してオーケストラにかき消されることも多かったですが、18日よりは声は出ていたと思います。

 

パンクラトヴァはこの巨大な役を巨大に歌うのではなく細々と歌う技術を持っています。決して勢いでは歌わない。はちゃめちゃな音の動きも丁寧に歌っていきます。それだとエレクトラとしての面白みがなくなってしまいそうですが、お持ちの声の太さと安定感があるので乗っかってしまえば繊細さと迫力が同時に味わえる歌唱を披露できます。

 

役に振り回されずに安定した技術で歌唱をコントロールし続けることができる強さは素晴らしいです。当初の予定だと読響主催公演でサントリーホールで歌う予定だったのですね。サントリーホールで聞きたかった。そしてチケット代が安い。

yomikyo.or.jp

 

クリテムネストラの藤村より安定して響く低音は聞いていて気持ちいいです。低音と同じくらい強い高音も最高です。悲鳴でも押し出しでもなく上手に抜ける太い高音ほど気持ちの良いものはないです。上から下まで忙しい音ととっつきやすい旋律が少ない(あるのか?)のに音楽の流れがよくわかる。

 

アガメムノンへの思いを歌うときはワンパターンではありますが、斜め上に手を伸ばしているはずのないアガメムノンに呼びかけるようなお芝居をします。ちょっと悲しみがあります。

 

クリソテミスが話している(歌っている)ときは表情の変化がなくどこを見ているのかわからない目が怖かったです。とりあえず話を聞いていないことはわかる。

 

クリソテミスに対して”Tochter meiner Mutter, Tochter Klytämnestras?”と歌うときの表情とねっとりとした嫌味っぽい歌い方がとてもエレクトラでした。フレーズの間で唇を舌で舐めていたのがとても狂気だった。前の場面ではアガメムノンに対して必死に呼びかけていたのに、急に舐めた態度になる。切り替えが面白かったです。

 

対クリテムネストラでは、会話のスピード感がとても気持ちよく、18日のように順番に歌っているだけのようには聞こえず、リアルなやりとりを聞いているようで面白みがありました。”Ein Weib!”の歌い方の冷たさがこれまたかっこいい。ここから続くクリテムネストラとのやりとりは緊張感とじわじわ追い詰める様子にゾクゾクしました。

 

対オレストはパーぺがほとんど何もしないので18日は動きにくそうでしたが、21日は開き直って一人でお芝居をしているように見えました。視線を合わせることはやってくれたので多少は動きやすかったのかな。エギストへの敬ってそうで全然敬ってない憎たらしい歌い方がまた最高でした。

 

パンクラトヴァのエレクトラは場面場面、対登場人物でエレクトラの性格をわかりやすく変えます。人によって態度を変えるのは現実世界では嫌な女の特徴ですね。エレクトラはどうでしょうか。

 

“Sei verflucht!”は18日の方が抜けるように歌えていたと思います。音が瞬時にはまりきらなかった印象。

 

終幕でエレクトラが動かなくなる前に両手を斜め前に伸ばしているのですが、登場からの独壇場でアガメムノンへ呼びかかけるときと同じ動きなので、最後に変な踊りを踊っていたらアガメムノンが迎えに来てくれたのでしょう。よかったね!エレクトラ

 

クリソテミス

声量・安定感ともに凄まじく技術面に対しては申し分ないです。ありがとうございます。大編成のオーケストラに負けることなく歌声を劇場全体に届けることができるのは流石です。

 

しかしイマイチ乗り切らないというか面白みのない歌唱だなと印象。その原因はどこなのだろうと考えながら聞いていました。一旦お芝居をしないというのは置いておきます。

 

クリソテミスの見せ場である「私は普通に生きたい!」という内容を歌っている部分を聞いていたとき、フレーズごとに流れが切れることがわかりました。この部分は一番とっつきやすい音楽ではっきりとメロディがわかるので歌手としても歌いやすいし、客席も音楽として聞きやすいでしょう。逆に言えば音楽の流れが綺麗なのでミスしたときに目立ちやすいです。

 

控えめに感じたオーケストラの演奏ですが、控えめといっても音量が大きいことにはかわりなく、その中で歌うので息の流れやフレーズの処理の仕方の技術力はそこまで気になりません。オーケストラが掻っ攫っていくので。息の流れに自信がない人は伴奏に大きな音で演奏してもらうように依頼しよう!

 

誰よりも声が届くので上手に聞こえたと思います。もちろん上手であったことにはかわりないのですが、お芝居としての表現を感じにくいのはこのあたりが原因かなと思いました。

 

21日は手を胸に当てて歌っていることが多く、始めはそういったお芝居なのかな?と思いましたが、タイミングや長さが歌詞とあっているとは思えなかったです。声(喉)が上がってくるのを抑えていたのではないか。コンディションはあまり良くなかったのかもしれません。

 

両日ともですが登場してきて指揮台の横に立って前を向いて歌っていました。ほぼ棒立ちです。ですが21日の方が動くようになりました。オレストが死んでしまったことを知ったときにエレクトラと抱きしめあったり(18日はなかったよね?)、エギストが死んで喜ぶエレクトラの方を何度も体を使って見ていたり(=顔だけでなく)と動けないわけではないのだなと思いました。

 

エギストが死んだ後に歌う部分の”〜ich muß bei meinem Bruder stehn!”の”stehn”の収め方がとても綺麗でした。声が上手にハマったなと。最後2回の”Orest!”のうち1回目がOreestという具合に伸ばしている最中にテンションが1回かかってしまったのが気になりました。

 

とはいえ、後方のオーケストラの圧を受けながらも大変さを感じさせない歌唱技術は素晴らしいものです。

 

オレスト

オレストの感想を正直に書くにはパーぺが歌っていたということを忘れなければなりません。パーぺフィルターを取って、パーぺのことを知らなかった場合、どのように思ったかを書いておきたいと思います。

 

21日も譜面持参おじさんでしたが、18日よりかは顔を上げる頻度が多く、動き回らないもののエレクトラとのアイコンタクトが増えお芝居している感が増しました。

 

歌曲シリーズを含めて、春祭の感想では毎回暗譜の話をしている気がします。暗譜大事ですよね。自分の仕事が頭に体に入っているのか、説明書を見ながらでなければできないのかって全然違いませんか?楽譜は説明書ではありませんが日常生活に近いところでいうならば似たような感覚ではないでしょうか。

 

パーぺだから超大物だから暗譜していなくても歌ってくれるだけで嬉しい!と思いたい部分もありますが、パーぺ以外の人が同じようなことをしたらどう思うのかと考えるととりあえず覚えてこいとしか言えません。リサイタルならいいのですが、共演者がいて共演者はみんな暗譜なのに一人だけ楽譜見るのって。どうよ?もしかして暗譜って知らされていなかった?

 

音楽表現を感じるような歌い方はなくエレクトラの名前を叫ぶ歌う部分は棒読みすぎて逆に面白かったです。お持ちの声が良いので聞けないことはないのですが。元々の声の良さってやっぱり強いな。

 

パーぺの声に会場が支配される様子は何回聞いても楽しいです。

 

カーテンコールのときにずっとエギスト役のリューガマーとおしゃべりしていました。仲良し?何を話しているのかはわからなかった。カーテンコールではメガネを外してくれるのは嬉しいですね。

 

今度は暗譜で会いましょう。

(パーぺが暗譜不可な事情があればこっそり教えてください。)

 

クリテムネストラ

パンクラトヴァの低音の方が安定感も迫力もある。ソプラノの逆襲に見舞われておりました藤村ですが、声の集め方や無理に押し出して歌わない姿勢は好きです。

 

声の細さが常に気になりました。藤村が歌う部分ではオーケストラも終始抑え気味だった印象です。

 

”Ja,du!”と歌う部分(エレクトラとの会話)”du”の部分が全くもって伸びず。途切れてしまったのではないかと思いました。この後に続くオーケストラの音も一瞬盛り上がったかと思いきやすぐに引っ込んでしまったのでこんな感じだっけ?と焦りました。

 

ヴァイグレは藤村の歌い出しだけはほぼ全て指示を出していました。顔を藤村の方に向けてどうぞ!ここですよ!という感じに合図を出していました。他の歌手にやっていなかったわけではありませんが、藤村だけ頻度が多くわかりやすい指示だったので、何か理由があるのか気になります。

 

クリテムネストラは立場ある人の品格と不安定な精神状態の両方がわかると面白い役だなと思いますが、藤村のクリテムネストラは藤村でしかなかったなという感想です。

 

エギスト

ちょっとしか歌わないのにわざわざ遠い遠い島国まで来てくれてありがとう。エギストパートではヴァイグレが謎に笑顔を見せたのが面白かった。空気読めないエギスト可愛いよね。すぐ死んじゃうけれど。リューガマーはエギストの声だったと思います。死に際も上手でした。それ以外に感想はないです。

 

以上です。

 

千秋楽パワーってすごい。

春祭楽しかったー。

珍しくグッズも買っちゃって。布のバッグ買った。

シュトラウスチャイコフスキーって書いてあったら買うでしょ?

 

いつまで楽しめるかわからないけれどとりあえず来年は今年以上にたくさん聞きたいです。

ありがとう、春祭。

 

おしまい。

 

 

指揮:セバスティアン・ヴァイグレ

エレクトラ:エレーナ・パンクラトヴァ

クリテムネストラ:藤村実穂子

クリソテミス:アリソン・オークス

エギスト:シュテファン・リューガマー

オレスト:ルネ・パーペ 

第1の侍女:中島郁子

第2の侍女:小泉詠子

第3の侍女:清水華澄

第4の侍女/裾持ちの侍女:竹多倫子

第5の侍女/側仕えの侍女:木下美穂子

侍女の頭:北原瑠美

オレストの養育者/年老いた従者:加藤宏隆

若い従者:糸賀修平

合唱:新国立劇場合唱団

合唱指揮:冨平恭平

管弦楽読売日本交響楽団