2024年4月15日(月)19:00公演
東京文化会館小ホール
東京春祭 歌曲シリーズ vol.40
オッカ・フォン・デア・ダメラウ(メゾ・ソプラノ)&ソフィー・レノー(ピアノ)
お世話になっております。
三島でございます。
この日は春祭の歌曲シリーズを聞きに再び東京文化会館小ホールへ。
今年の歌曲シリーズは4公演あり私はうち3公演を聞くことができました。
↓vol.37レネケ・ルイテン(ソプラノ)&トム・ヤンセン(ピアノ)
mishimashikahika.hatenablog.com
↓vol.38ルネ・パーペ(バス)&カミッロ・ラディケ(ピアノ)
mishimashikahika.hatenablog.com
それでは感想いってみよー。
(以下敬称略)
全体的に
一番嬉しかったのはほぼ譜面を見なかったことです!
ホール内に入ると案の定譜面台が置いてありダメラウも暗譜じゃないのかーと思いましたが、いざ始まってみるとほぼ暗譜で歌っていました。唯一、ベルクの「4 Lieder(4つの歌)」だけ譜面を見ていましたが、ずっと譜面を見ているわけではなかったのでよかったです。休憩後は譜面台が舞台上から消え去っておりアンコールまで完全暗譜での歌唱でした。
楽譜を見ながらだとどうしても視線が落ちてしまい表情もよく見えないので嫌です。何より譜面に対して歌うかたちになるので声の行き渡り方も変わってきますよね。譜面がないとずっと前を見てくれているのが嬉しい。
歌唱に関しては今回の歌曲シリーズで私が聞きに行った公演の中では一番安定していたのではないでしょうか。
高音から低音まで質が同じです。なめらかに音が運びます。なめらかであっても流れることはありません。強いて言えば(言うな)高音に硬さはありますが、ダメラウのレパートリー的に必要な強さなのかもしれません。
ドイツ語の発音があまりはっきりしなかったのはなめらかさを意識しているからなのか?はっきり発音しないタイプなのか?でも歌が安定しているとどうでもよくなりそうになる。魔法ですね。
私の席の周りではお休みモードに入っているからがちらほらいましたが、こればかりは大いに気持ちが理解できます。心地良すぎていい睡眠が取れると思います。(私は起きてたよ。)睡眠でお悩みをお持ちの方はぜひダメラウの元へ行ってください。
朝飯前というか寝起き、もしかしたら寝ながらでもその声で歌えるのではないのかと思うくらいの余裕さがありました。余裕を持ったパフォーマンスができてこそのプロですね。かっこいいです。この公演の後にオペラ一本出演できるのではないかと思うくらい余裕を感じました。
高音を中音域と同じような太さで出すのですが押しているようには聞こえることはほぼなかったです。常に十分に口の中のスペースを感じました。
お衣装はブルーでマツコデラックスがよく着ているようなドレスでした。肩部分にビジューの装飾がついていましたが、髪を下ろしていたので隠れてしまっていました。首まであるはっきりとしたブルーの衣装に埋もれない顔の強さが羨ましいです。(ここでいう顔の強さとは華やかさ美しさを指します。)
ピアニストのレノーはチャコールのVネックドレスに黒い上着を羽織っていました。
レノーは寄り添うような伴奏というよりかは自分の仕事を的確にこなしているような伴奏に聞こえました。決して悪い意味ではなくお互いがお互いの仕事を全うしたときに生まれる音楽の説得力は良いな思いました。助け合いのデュオも良いものですが、信頼感があるからこその己の道を進むのでしょう。
デメラウはすぐに歌い始めるタイプで私はかなり好きです。曲と曲の間が短くさっさと歌い始めます。完全に好みの問題ですが、ピアノの方を向いて長々待たされるのがあまり好きではないので。もちろん歌手としては意味のある時間なのでしょうが、そのわりに「?」な歌を披露されるとこちらの心の中も「?」となります。
本当に上手な人はさっさと歌うイメージがある。真偽は不明です。
(↓この公演では歌ってない曲だけれどご本人の歌唱音源)
ここから少しだけ曲ごと(曲集ごと)の感想を書いて終わります。
(全曲の感想ではありません。)
アンコールから
相変わらずアンコールの感想から始めます。
アンコールはマーラー作曲の
Hans und Grete(ハンスとグレーテ)
Wer Hat dies Liedlein Erdacht(この歌を作ったのは誰?)
を歌唱。
本編よりも和らいだ雰囲気と表情が明るく身振り手振りが可愛かったです。
1曲目(Hans und Grete(ハンスとグレーテ))の”Juchhe!”といいながら降りてくる部分は全く響きが変わらずに驚きました。どこかで響きの質が変わるものだと思っていましたが何の影響も受けずに下がってくるし一番低い音の綺麗なこと綺麗なこと。楽しくてしょうがなかった。高音への上げ方もスピード感と両立する柔らかさがありました。
2曲目“Wer Hat dies Liedlein Erdacht”(この歌を作ったのは誰?))の”Es ist nicht dort daheime!”を2回繰り返していう部分の2回目のこだまのような歌い方が好きだった。
細かい音型もそのままの声で歌います。若干音がはまりきらない気もしましたが、声を細くせずによく動かせるなとおもどろきました。
ブラームス
1曲目の”Meine Liebe ist grun(わが恋は緑)”は出だしの音が広がりすぎて整っていない感じがありました。最初をびゃーと歌う癖があるのか、ホールの響きを伺っていたのかわかりませんが3曲目くらいまでは広げ気味で歌っておりました。
広がりすぎた声が気になって歌に集中できないこともありますが、ダメラウの場合は広がりすぎてはいるものの響きと音の安定感があるのでそこまで気にならずに終わりました。
技術的に気になることはあっても別のところで補うのがプロですね。
「Wie Melodien zieht es mir(調べのように私を通り抜ける)」は”wie Frühlingsblumen blüht〜”や”wie Nebelgrau erblaßt〜”部分で思いを馳せているような表情がとても素敵でした。
「Von ewiger Liebe(永遠の愛について)」は出だしの”Dunkel”の歌い方がカッコよかったですね。なんと形容していいのかわからない。マネできない声の落ち着きと深さと暗さがありました。
ベルク
4 Lieder :4つの歌
なんて難しい曲たちなのだ!と思っていましたが、全く難しさを感じさせない歌い方にもう笑うしかないです。頭が上がりません。
丁寧に正確に歌いながらもどんどん曲の世界を広げてくる技術がすごい。力量がなければ曲の良さを伝えられずに何だかよくわからない印象を与えて終わると思いますが、譜面を見ているものの仕上がりは上々なので聞き応えがありました。
1曲目の出だし”Schlafen”の深さと闇が深い感じはメゾソプラノ特権のような技だなと思いながら聴いていました。深い音が心地よくもありながらどこかへ沈められるような、心を襲ってくるような声で引き込まれました。
4曲の曲集でよかったです。入り込みすぎてこれ以上続いたら現実に戻ってこれなかったかもしれません。そう思えるくらい深い歌唱でした。カッコ良すぎる。
マーラー
Ruckert Lieder:リュッケルトの詩による5つの歌曲
ベルクの世界から現世界に戻ってきた感じが良いですね。好きなプログラム展開です。
「Blicke mir nicht in die Lieder(わたしの歌をのぞき見しないで)」は後半の”nasche du!”の歌い方が好きでした。スピード感のある”nasche”の発音と”du”の母音の収まりのいい感じが良いです。
ダメラウは母音の一つ一つが深いというよりかはそもそも歌っているポジションが深いので母音ごとの差がないですね。それゆえに歌詞がはっきりしない部分はある。ネイティブ(推定)でもそう聞こえることがある。日本人歌手も日本歌曲歌うと日本語がはっきりしないことがある。
「Liebst du um Schönheit(美しさゆえに愛するのなら)」も素敵でした。過剰な表現はしないからこそシンプルでストレートな歌詞も意味がダイレクトに伝わってきます。
表現が少ない=つまらないではないことを教えてくれました。そもそも音楽の流れを美しく聞かせることができるからこそこの歌い方ができるのでしょう。
最後の”Liebst du um Liebe, o ja mich liebe!〜”のやりすぎない盛り上がりは心にグッときました。スポットライトがあたるべき部分に当たっているような感覚のなりました。
この曲がさらに好きになりました。音源ではなく劇場で聞いて得られるものがあることは当たり前であって欲しいのですが、そうはいかないのでこの貴重な経験に心から感謝します。
「Scheiden und Meiden(別離)」は歌詞の内容とは裏腹に高らかに歌うと思っていましたが、ダメラウの歌唱表現は歌詞からのダイレクトアタックが凄まじい力でした。元気に歌うというよりかはなめらかに哀愁を漂わせながら歌っている感じでした。テンポもゆっくりめだったと思います。
出だしの突き抜けるピアノの音が前の曲から勢いよく色を変えていくようで聞いていて楽しかった。
“Ade〜”と伸ばしてるだけなのにその声に表現力がありこれが悲しいお別れの歌であることが伝わりました。
ワーグナー
Wesendonck-Lieder: ヴェーゼンドンク歌曲集
この公演の最後をしめる作曲家であると同時に今年の歌曲シリーズの最後をしめるワーグナー。私が逃しているだけかと思いますが、ワーグナーの歌曲を劇場で聞く機会が少ないので(たぶん人生で3回目)楽しみにしておりました。
どの作曲家の曲よりも声がハマるような印象を受けました。私がワーグナーを歌うことに意味があるのよと言われているような説得力のある歌唱でした。でもアンコールのマーラーもだいぶしっくりきました。
最後の曲「Traume (夢)」のダメラウの最後の声が美しく噛み締めながら消えていくような声が、灯が小さくなっていくように感じました。ピアノの後奏もダメラウの声を引き継き大変美しく同時に切なかったです。
一番印象に残っているのは最後のダメラウの表情です。自分の歌が終わってもピアノの最後の音が鳴り止むまで気を抜かずにまだ曲の中にいるような様子が好きです。先に帰ってはいけない。
以上です。
歌曲シリーズ楽しかった!
ルイテンとダメラウはオールドイツ歌曲。
パーぺはドイツ語・チェコ語・英語・ロシア語と多国籍な言語たちを披露。
イタリア語なくてもこんなに楽しいよ!
どうですか?イタリアオペラ屋さん?
幸せな約2週間だった。
来年は全通しよー。
私の所有する春祭のチケットも残り少なくなってきました。
そろそろエレクトラがやってきます。
シュトラウスで終わる春祭最高です。
おしまい。