三島の見解

古の女子高生

2回目【オペラ】リゴレット(英国ロイヤル・オペラ2024年日本公演)

2024年6月25日(火)13:00公演

神奈川県民ホール大ホール

英国ロイヤル・オペラ2024年日本公演

ジュゼッペ・ヴェルディ作曲

リゴレット

お世話になっております。

三島でございます。

 

お祭りの感想です。

お祭り↓

www.nbs.or.jp

この日は22日に引き続き神奈川県民ホールへ。

22日の感想はこちら↓

mishimashikahika.hatenablog.com

(会場名を横浜県民ホールって書いておりました。修正しました。横浜県を誕生させてしまったことをお詫び申し上げます。)

 

22日は完成度の高い公演に出会えたことでウッキウッキで帰宅できました。

ありがたいです。

 

さて、25日はどうだったのでしょうか?

それでは感想いってみよー。

(以下基本的に敬称略)

 

私は座っているだけ

座っているだけで勝手に耳に音が入ってきます。なんて?どうした?みたいに聞き取りにいく姿勢をとる必要がないので物凄く楽でした。もちろん歌手によってはオーケストラにかき消されたり上っ面の発声になっていたときもありましたが一瞬だけ、ん?と思うけれどそれだけで終えるころができるレベルでした。気になるところはゼロではありませんが役への説得力と舞台全体の緊張感と集中力と圧力があったので全体的な満足度は上がりました。

 

メインの歌手も合唱もオーケストラピットの中も見ていたかったので目が足りませんでした。特に合唱は1人1人の動きや表情が良くて合唱というまとまりで見るにはもったいなくらいでした。楽しかったです。合唱をずっと見ていたいと思えることは少ないので良い体験でした。

 

万全のサポート体制

オーケストラが上手な公演の安心感は半端ないですね。どうした?寝てたのか?とかツッコミをせずに済む。

 

歌手の第一声を乗せるような誘うような演奏はしていない。そこは自力で来いよ!と言わんばかりの厳しさを感じました。楽譜がそうなっていればそのように演奏するけれど特別対応は致しませんというような具合。ただ出だしをきちんと歌えれば後は万全のサポート体制がある。歌いやすように通り道を丁寧につくりつ後ろからも支えているような前後から行き届いたサポートを感じました。

 

歌手が安心して歌えるというより一緒に歌っていて楽しい演奏なんだろうなと思いました。1人で歌う各々の見せ場の曲ではオーケストラが道をつくっていますが歌手が方向性を定めるているように感じました。舞台上で歌手がやりたいことや感じたものを何倍にもして客席に届けてくれました。

 

残りは幕ごとに書いていきます。

 

1幕

序曲終わりにお披露目される絵は「ウルビーノのヴィーナス」だそうです。1幕のリゴレットのお家の場面ではこの位置にジルダが同じ姿勢で寝ています。また1幕終幕でジルダの身代わりに置かれた死体(人形?)も同じ姿勢と格好をしており舞台に一貫性を持たせていました。マントヴァ公爵からすると絵画だったものが生身の人間になったということで二次元から出てきてくれてさぞ嬉しいでしょう。

 

マントヴァ公爵を演じたハヴィエル・カマレナの出だしの声とその後の”Questa o quella〜”は乗り切らない歌唱でした。丁寧に歌ってはいるのですが言葉も音も流れてしまっているように聞こえた。でもカマレナの歌声には無駄な硬さがないので楽に聞けて嬉しいです。かっ飛ばすように歌う人がお好きな方からの評価は落ちそうですが私は元気なテノールは疑ってかかってしまうのでカマレナの優しい声は好みです。細かい音型は不安定になり雑さも目立ちます。上手に転がせてない感じが否めない。声質や声量の変化なく細かい音型を歌えることは良いところなのでもう一歩頑張って鮮明な音を聞かせてほしかった。

 

カマレナが演じるマントヴァ公爵は普通の人っぽさがいいなと思います。普通の人っぽいのにモンテローネ伯爵の目玉を刺したり女への扱いが酷かったりとやりそう!という雰囲気がないところに怖さを感じます。

 

男性合唱は22日も25日も大変充実しておりました。個々の声が主張しすぎずに調和というものが何なのかを理解できている声がありました。合唱は俺の声飛ばし大会ではないからね。”Vendetta〜”と歌う部分はオーケストラの音も相俟って声が波のように客席にやってきます。音の圧が心地よすぎてそのまま圧に負けて崩れ落ちたい気分でした。合唱の声がここまで心地よかったことがない。この公演の一番のお気に入りを挙げるならば迷いなく”Vendetta〜”の歌い方です。

 

モンテローネ伯爵を演じたエリック・グリーンだけはわかりやすく上っ面発声でした。他の歌手ほぼ全員が深い発声で歌っているので浅いところで歌っているのがとても目立つ。声自体には深みがありましたがその深みのある声で浅い発声をするので中身のない音になっていました。フレーズの流れがなく無駄に切れ目が発生しているのも気になった。お持ちの声が低音担当っぽい声で何となくそれっぽく聞こえますが良い発声ではなかったことを書いておきます。

 

マントヴァ公爵がモンテローネ伯爵の目玉を刺す場面でリゴレットが我に帰り化粧を落としを始める動作はさっきまで仕事を全うしていたのに急に落ち着かなくなってしまう様子の心理描写が細かくて良かったです。あれ?どうしたリゴレットと思わせる。マントヴァ公爵も目玉を刺した後そそくさと退場してしまうのですがその様子が男には興味がないことを表しているようで面白かったです。刺してるときは楽しいのでしょうがそのあとは知らんといった感じで。

 

リゴレットとスパラフチーレの出会いの場面はエティエンヌ・デュピュイもアレクサンデル・コペツィも歌唱技術が安定しているので安心して聞けます。殺し屋が帰宅導線をうろうろしているので治安大丈夫?って感じですがそんなこといってたらこのオペラ見れないよね。コペツィの最低音(曲の最後)の伸びが大変美しかった。ぶれない。押し出さない。錘がスッと下に落ちていくような迷いのない音が綺麗でした。伸ばしたまま退場していくのですが舞台上から姿が見えなくなっても響く声が最高でした。同時にリゴレットが”Va”と繰り返し歌います。デュピュイの歌い方に「行け!!!!」という強い思いがありました。同じ言葉を繰り返しているときの歌い方次第で伝わり方が大きく変わります。ただ「バ・バ・バ」と歌うとレーニングかな?となってしまいますね。

 

デュピュイは言葉に感情を乗せるのがとてもお上手です。特に好きのは”Ah! veglia o donna,questo fiore〜”とジョヴァンナにジルダを頼んでるときの”questo fiore”の歌い方が優しさと愛おしさが混ざっていて苦しかった。ジルダに対してわがままを突き通してるリゴレットですがデュピュイが大変丁寧に歌うのでなんとなく正当性が出てしまう。演技力と言葉の使い方スゲーというところです。

 

マントヴァ公爵が登場しジョヴァンナとジルダのガールズトークを聞いております。ここでジルダが「好きな相手は貧しい方が良い。」と言ったのを聞いてジャケットを脱ぎシャツの袖をまくり金持ちっぽさを隠そうとするのが面白いです。アクセサリーも取れよ。その後の会話で名前を聞かれたときに名前考えてなくて若干イライラしながら焦っているのも面白かったです。偽名難しすぎない?

 

ジルダとマントヴァ公爵のお別れ場面(暫定)の動きが面白かったです。”Addio〜”と歌いながらも物理的距離を縮めていくのはオペラ演出あるあるだなあと思いながら見てました。ジョヴァンナは気が気じゃないだろうしそもそも誰かが近づいて来ているのに一歌い始めちゃうのは本当に面白い。

 

ジルダの見せ場”Caro nome〜”はこの日も素晴らしかったです。ネイディーン・シエラはビジュアルも歌も素晴らしいので困ります。22日よりも声量は落ちた気がしますがその分コントロールが行き届いているように感じました。22日に客席が埋まった状態の響きの感覚を掴んで声量を調整したのでしょう。22日よりも研ぎ澄まされた歌唱となっておりました。

 

どの音にも自由自在に降り立ちますがふわふわしているのではなくきちんと音を収めます。どこまでも飛んでいきそうな声の響きと完璧に把握された音がある。つまり完璧(語彙力)。22日に気になった細かい音型になると声が引っ込んでしまうような感じはこの日はそこまで気にならなかったです。引っ込むことは引っ込むのですが差が小さくなった気がしました。

 

言葉の扱い方は絶賛来日中のリセット・オロペサと似ているところがあります。母音に影ができるところや言葉が捏ねられるような歌い方が出が似ているし3幕の男装は髪型も似ている。母国語が一緒(2人もアメリカ人)だと同じような影響を受けるんだなと勉強になりました。

 

2幕

マントヴァ公爵の出だしの声がスムーズでとてもよかったです。落ち着いていて良い発声が聞けました。曲が進むに連れて浅くなってきたのは残念ですがもっと上手に歌うことができる人ということを確認できたので良かったです。多少浅くなってしまってもそこまで気にならないレベルで物語を邪魔することはないのですがもっと上があるならその声で全部聞きたいです。この曲の終わりにぶらぼーがかかったのは納得できます。

 

最後の高音は出さずに終りました。危なっかしいから出さなくて正解だと思います。高音大好き人間がいるならば彼の評価は低くなってしまうと思います。しかそ私は高音はそれほどでも人間なので最高音の出す出さないは基本的には気にしないです。22日に気になった高音前に一度ひっくり返りそうになるのはなくなりましたが高音の音程が甘かったです。全幕を通してはっきりした高音が一度も聞けなかったのは高音はそれほどでも人間としても心残りなので後2公演で頑張ってください。

 

リゴレットの見せ場”Cortigiani〜”はオーケストラの出だしが素晴らしい。疾走感のある音が迫ってきます。立ち上がって音を受け止めたい気分だった(迷惑)。

 

デュピュイは歌い方が本当に丁寧です(2回目?)。感情をしっかりと言葉に乗せて歌う。”figlia”はジルダをことを思い優しく、ときに心配しすぎて苦しさが伴った声で歌う。”Buffone”は自身の立場やそれに伴う周囲の反応に対する憎しみや蔑みが含まれた言い方。”pianoto”も泣きそうな声でした。劇的なお芝居はしないけれど緻密につくられたデュピュイのリゴレット像は苦しいほど内面を描いており歌唱だけでなく舞台で表現するもの全てが丁寧だなと思いました。

 

発声が崩れない。口の開き方が縦で口周りが無駄に力んでなかったです。口のフォームはやっぱり大切なんだなと実感。声がどこから出ているのかわからない体から離れた声は力技も絶叫もなく丁寧に言葉を運んできます。丁寧すぎてもの足りないと感じる人もいるかもしれませんが歌唱技術に関しては素晴らしいですので間違っても下手という感想に至らないようにお願いしたい。

 

デュピュイとシエラが一緒に歌っていると安心します。声の相性がよい。響きも良い。ストレスがない!ありがとうございます。

 

正確なタイミングを忘れてしまいましたがリゴレットが机をバーン叩く動作があるのですが、ちゃんと曲の切れ目で行っており音楽を邪魔していないことに好感が持てました。血糊の滴る音とか扇風機の音とかで音楽を邪魔しちゃいけないってことよ。ジルダが登場したときにジルダの声に反応しつつも本人を見失っているのが面白かった。想定した位置にジルダがいなかったので歌詞と動作が若干矛盾してました。おもしろハプニングですね。

 

3幕

マントヴァ公爵のスーパー有名な”La donna e mobile”はこの日も出だしのオーケストラの音が最高すぎた。出だしの音だけ数回披露してほしい。カマレナの歌唱は22日よりも音がボヤける。22日の方が調子良かったのかもな。”muta”の発音の”u”が深くないし前の”m”に影響を受けてしまって若干締まり気味になっていました。母音の深さを聞きたかったです。曲が終わる前に拍手をもらっていたので(曲が続いているので拍手するところではない)多くの人は満足したのではないでしょうか。有名すぎて期待度だけが爆上がりするので大変なお仕事ですよね。それも3幕に歌わせるなんて。さっさと歌って安心したいだろうに。

 

寝そうになりながら歌うときの方がリラックスしていて良い声でした。オーケストラの音量も違うし全部歌わないしで比較してもしょうがないですが。寝そうになりながら歌う演技上手ですね。あくびのタタイミングや度合いがちょうど良い。

 

有名な4人で歌う歌”Un di,se ben rammentomi〜”はマッダレーナ演じるアンヌ・マリー・スタンリーの声が響かないので期待していると拍子抜けしてしまいます。4人の声がちゃんと聞こえることはない。ジルダとリゴレットがいる位置が暗すぎて表情が見えないくいのも面白みが半減していると思います。

 

ジルダを殺す前のジルダ、スパラフチーレ、マッダレーナの3人で歌うところはオーケストラのフォルテ気味の音がカッコ良すぎた。22日よりも勢いがあり嵐だった。ただオーケストラの音量に負けなかったのはシエラだけでコペツィとスタンリーの声が行方不明になってしまったのが残念。

 

男装したジルダがスパラフチーレにあった瞬間に刺されるのはクイック殺人すぎて面白いですね。本当に誰でも良かったんだなと。

 

終幕は本当に辛い。リゴレットは娘もお金も(仕事も)失っちゃったわけでしょ。袋の中身がジルダだとわかってからあたふたし誰かいないか呼んでみたりとパニックになっている様子が痛々しかった。物語は悲しいけれど最後もデュピュイとシエラが歌って終わるので耳は幸せだった。

 

以上です。

3幕感想少ないね。

 

カーテンコールはアントニオ・パッパーノがニッコニッコで何よりだった。

開演前にロビーコンサートがありました。ロビーとは思えない響きのある音での演奏でした。

リゴレットは会場をNHKホールに移し後2公演で終了だそうです。

行かれる方が素敵な時間を過ごせますように。

 

おしまい

 

指揮:アントニオ・パッパーノ

演出:オリヴァー・ミアーズ

美術:サイモン・リマ・ホールズワース

衣裳:ローナ・カラス

照明:ファビアナ・ピッチョーリ

ムーヴメント・ディレクター:アナ・モリッシー

マントヴァ公爵:ハヴィエル・カマレナ

リゴレット:エティエンヌ・デュピュイ

ジルダ:ネイディーン・シエラ

スパラフチーレ:アレクサンデル・コペツィ

マッダレーナ:アンヌ・マリー・スタンリー

モンテローネ伯爵:エリック・グリーン

ジョヴァンナ:ヴィーナ・アカマ=マキア

マルッロ:ヨーゼフ・ジョンミン・アン

マッテオ・ボルサ:ライアン・ヴォーン・デイヴィス

チェプラーノ伯爵:ブレイズ・マラバ

チェプラーノ伯爵夫人:アマンダ・ボールドウィン

小姓:ルイーズ・アーミット

門衛:ナイジェル・クリフ

合唱:ロイヤル・オペラ合唱団

管弦楽:ロイヤル・オペラハウス管弦楽団