2024年6月22日(土)15:00公演
神奈川県民ホール大ホール
英国ロイヤル・オペラ2024年日本公演
お世話になっております。
三島でございます。
円安でも頑張るNBSがお送りする海外劇場の引越し公演のお時間です。
いつもありがとうNBS。
今回はイギリスからロイヤルオペラ御一行の来日です。いらっしゃいませー。
私は2024年2月のパリ・オペラ座バレエのショックで来日公演への期待を高めることができなくなったのでこの日も何も考えずに劇場に行きました。これどうにかしたい。ワクワクしながら劇場に行きたい。チケット買った瞬間がピークなのやめたい。
NBSの偉い人は今後の来日公演の難しさを文章にしておられ大変勉強になります。新国立劇場は稼働率低めなのに貸出にはシビアなのか。稼働してないようで稼働しているのか。諸外国の国立劇場や有名劇場の稼働率を見ていると羨ましくなるので新国も主催にこだわらず稼働率上げてほしいのだが。
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それでは感想いってみよー。
(以下基本的に敬称略。)
オーケストラの煽り芸
オーケストラがよく喋るよね。オーケストラピットの中で私語をしているという意味ではないです。音楽の中でよく語っている。言葉を扱う歌手よりも雄弁に場面、心情、背景を説明してくれるので示しているものと示したいことを感じ取りやすいです。
演奏そのものが安定しており並行して表現力が爆発している。ここまでできて初めてオペラになるのだろうと思える演奏だった。上手の先に何があるのかを改めて理解した。オーケストラに限らず楽器のソロでも歌でも一緒ですが技術の先にある表現力や説得力を味わえたときは本当に嬉しい。本当はこういう音楽だったのか悲しくなるほどに教えてくれる。
では私は指揮者アントニオ・パッパーノ率いるロイヤルオペラ管弦楽団に何を教えてもらったのでしょうか?
その①
1幕終幕前にリゴレットが部屋にジルダがいないことに気づくまでの音楽が素晴らしく煽ってきます。目を背けたい事実に向き合うような苦しさがあった。それがリゴレットだけでなく客席にも向けられていた。客席はジルダが攫われるところを見ているので驚きはないはずですが、オーケストラの演奏がハシゴを登るリゴレットの穏やかではないざわざわした心を表しているようでリゴレットの気持ちになってしまいました。いないとわかったときの絶望を味わった。息が詰まるような音楽だった。リゴレットの気持ちを教えてもらった。
その②
1 幕のリゴレットとジルダの掛け合いは噛み合っていないことを最大限教えてもらった。双方が相手を思っているようなことを言いながらも自分の気持ちを優先している内容を絶妙に音楽に乗せている。音楽的には美しいのにどこがチグハグで心が休まらない。不穏な雰囲気がありました。アフタートークでパッパーノがキャラクターの描き方が大事で難しいところ(うろ覚え)と仰っていたのでパッパーノ的に注視したポイントなのでしょう。よく伝わりました。ありがとうございます。
その③
ジルダの見せ場のお歌“Caro nome〜”が全然可愛くない。ずっと暗い。ジルダが浮かれ野郎になってしまっているのにオーケストラは全然浮かれてくれない。最後に入ってくる合唱に焦点が当てられているような演奏。合唱と一緒にジルダを誘拐する機会を伺っているのか。また合唱と一緒に入ってくる低音のドンドンドンの恐ろしさが完璧すぎる。音全体が締まる。足音なのかなこれは。オーケストラは誘拐する側だったのか!“Caro nome〜”はピアノ伴奏の方が可愛いです。
その他
3幕の有名すぎるマントヴァ公爵のお歌”La donna è mobile〜”の出だしのドゥンが良い。これは良いドゥン。この曲に慣れすぎているのかオーケストラの演奏に余裕がありすぎてニヤニヤしそうになった。歌がどうなっても助けてあげられるような余裕さを感じた。
弦楽器の目立ち方が好みでした。序曲の後半の音量が大きくなったのきの弦楽器の分厚さが心地よかった。弦楽器が強く大きく演奏すると音に空洞を感じることがあるのですが隙間のない密度の濃い音で嬉しかったです。
もっと上手に演奏できそうなまだ探ってそうな感じがありましたがとりあえず満足です。
男性合唱も分厚い
弦楽器も分厚かったのですが男性合唱がまた厚い。圧もある。低音の広がり方が素敵で劇場全体に張り巡らせれるような声が良い。全部の音を深い響きで歌うことができる。低音以外もしっとり歌っていて無駄にキンキンしないのがありがたい。合唱の音の豊かさって大事だよねと改めて実感。
歌も素敵なのですがお芝居もまた素敵でした。2幕のリゴレットとの応酬は怖すぎて泣いちゃう。笑いながら歌っているのが怖い。リゴレットを全力で見下しているのが怖い。
制限かけるほど?
NBS公式サイトに
※オリヴァー・ミアーズ演出の「リゴレット」には一部、暴力的および性的と受け止められる表現が含まれます。本国ロンドンでは12歳以上との制限が課せられておりますので、該当する年少者と一緒にご鑑賞を検討されている方はご注意ください。
と注意書きがありましたのでちょっと期待していたのですがよくあるレベル(?)で暴力的・性的と注意書きするほどかは疑問です。気持ち悪くなることを覚悟していましたが全く心配に及ばず。でも1列目でみたらきつかったかもしれない。目から血を流しているおじさんをお金払って至近距離で見たくない。
1幕でマントヴァ公爵がモンテローネ伯爵の目をぶっ刺して(ご丁寧に両目を)目から血が出ていたり3幕のジルダ刺されて血まみれ(ってほどでもない)が暴力要素かな?血よりもマントヴァ公爵が楽しそうに目玉を刺す方が年齢制限って感じだった。性的な部分は言わずもがな3幕のマントヴァ公爵とマッダレーナの絡みでしょう。1幕でモンテローネ伯爵の娘であろう妊婦(マントヴァ公爵がヤッチャッタ!)が暴力と嘲笑いの対象になっている部分は怖かったですね。
舞台セットはあまりお金がかかっていなさそう。新国で出てきても違和感がない。(新国の話を何回するんだろう?)ロイヤルオペラもお金ないのかな?ただ演奏が分厚かったり歌手の動き方が綺麗だったりするのでそこまで気にならない。衣装は質が良さそうに見えましたがずっと暗いので実際のところはわかりません。
歌の上手さが気にならない
公演の質が高すぎると歌が上手なことを忘れます。上手なことが当たり前になるのです。なんという贅沢!この公演のメイン歌手は気になることはゼロではありませんが素晴らしい団体と一緒に来日しているだけあって一定のラインを超えた歌唱と表現を見せてくれました。
口の中の空間の広さがほぼ全員に共通してありました。どの母音でもどの音でも口の中の空間が保たれているので音が平べったくなることがなく安定した深い声で歌ってくれました。イタリア語が鮮明に聞こえることはなかったのは残念ですがメイン歌手にイタリア人がいないので目を瞑りましょう。
中でも一番安定していたのはリゴレットを歌ったエティエンヌ・デュピュイです。聞いていて物凄く楽でした。勝手に耳に声が届く。座っているだけでいいのは本当に楽。斜め後ろを向いて歌っても何の問題もなく声が響く。どこで息を吸っているかわかりにくい流れを崩すことのない歌唱技術と感情が丁寧に乗った強弱表現が素敵でした。
お気に入りは1幕の殺し屋スパラフチーレのアレクサンデル・コペツィと一緒に歌うお歌です。低音担当と低音担当が2人で歌うだけでありがたいのにその2人がちゃんと上手って素晴らしすぎるよね。
マントヴァ公爵のハヴィエル・カマレナは思ったより淡白に歌いました。物足りない感じはあるものの中音域が固くなったり高音域を飛ばしすぎることがなかったのは良いところです。もうちょっと強さがあると楽しめる気がしますが派手ではない演出に合っている声という見方もできます。
高音ジャンプの一個手前で毎回ひっくり返りそうになるのが気になった。高音に辿り着いてしまえば綺麗に伸びるし力みもそんなに感じないのですがその前が危ない。いつかひっくり返るのではないかとヒヤヒヤしないがら聞いていました。
カマレナのマントヴァ公爵は嫌なやつではなくそういう生き方しか知らない可哀想なやつに見えました。人が嫌がることをピュアッピュアな心でやってしまうような危険なやつでした。ジルダのこともその瞬間だけは本気だったのだろうなと思わせるような真剣さがあった。
ジルダを歌ったネイディーン・シエラも晴らしい歌手でした。メインのお歌の”Caro nome~”は自由自在に音を移動していました。お持ちの声は暗めです。可愛らしいという言葉よりかは高貴という言葉が似合いそうです。声は暗めでも響きは明るく軽やかなのでジルダがよく似合います。基本的には一定のポジションで歌っていましたが細かい音型になると声が引っ込んでしまうのが気になりました。この差がなくなればもっと落ち着いて聞けると思う(私が)。
3幕の死に際での歌唱はイタリア語のフニャフニャ度が増してちょっとだけストレスがありました。死に際にハキハキ喋るやつはいないだろうから間違ってはいない。けれどもう少し鮮明にお願いしたい。
アフタートーク
終演後にパッパーノによるアフタートークが30分ほどありました。私が気になったことをちょっとだけ書きますがうろおぼえな部分も多いので軽く流してください。
今回リゴレットを選んだのはトゥーランドットと対極にあるオペラをやりたかったからだそう。ということはトゥーランドットを先に決めた(決まってた)のだな。リゴレットは「モダンでコンパクトの作品」と仰っておりました。他の有名なヴェルディ作品と比べると劇的要素は少なくお上品にまとまってるなと思います。尚、物語の内容。
神奈川県民ホールの感想として「暖かみのある響き」と仰っていました。本拠地はドライな響きだそうです。超有名指揮者か超有名楽団に新国のオーケストラピットに入っていただいて感想を聞いてみたいなと思いました。
これはお約束ですが、日本の聴衆のお行儀の良さに好感を持ってくれていました。2幕と3幕の間に舞台転換時間がありますが休憩ではないので客席で待機しなければなりませんでした。このとき日本の聴衆は静かにしておりますが、本拠地だとおしゃべりが始まるそうです。
最初のオーケストラのチューニングの時間も静かで「音楽に入りこむ大事な時間なのでしょうね。」みたいなことを仰ってました。私はそのように考えたことはなく単純に「音出してるから静かにしなくちゃ!」と思っていたのですが良い方向に取っていただけて光栄です。これからも日本のお行儀の良い聴衆の1人でいれるようにがんばります。
心が楽
勝手にチケットを買い勝手に劇場に行き勝手に音楽の心配をし勝手に完成度について悩むという日々を送っており心が楽になる公演に出会える機会が減っておりましたが今のの心は解放されております。リラックスしています。良い睡眠を取ることができました。尚、物語の内容。
アフタートークで「今日の出来はどうですか?」と聞かれパッパーノが答えるより前に拍手が起きる。パッパーノもそれに答える。私も全力で同調できる。納得できる演奏があった。嬉しい。
以上です。
会場が東京文化会館ではないのが新鮮だった。
アフタートークも聞けて良かった。
神奈川会場限定だぞ。
トゥーランドットは東京文化会館なのですね。安定の。もうすぐ使えなくなるらしい東京文化会館。
おしまい
指揮:アントニオ・パッパーノ
演出:オリヴァー・ミアーズ
美術:サイモン・リマ・ホールズワース
衣裳:ローナ・カラス
照明:ファビアナ・ピッチョーリ
ムーヴメント・ディレクター:アナ・モリッシー
マントヴァ公爵:ハヴィエル・カマレナ
リゴレット:エティエンヌ・デュピュイ
ジルダ:ネイディーン・シエラ
スパラフチーレ:アレクサンデル・コペツィ
マッダレーナ:アンヌ・マリー・スタンリー
モンテローネ伯爵:エリック・グリーン
ジョヴァンナ:ヴィーナ・アカマ=マキア
マルッロ:ヨーゼフ・ジョンミン・アン
マッテオ・ボルサ:ライアン・ヴォーン・デイヴィス
チェプラーノ伯爵:ブレイズ・マラバ
チェプラーノ伯爵夫人:アマンダ・ボールドウィン
小姓:ルイーズ・アーミット
門衛:ナイジェル・クリフ
合唱:ロイヤル・オペラ合唱団