2024年4月4日(木)19:00公演
東京文化会館 小ホール
東京春祭 歌曲シリーズ vol.37
レネケ・ルイテン(ソプラノ)&トム・ヤンセン(ピアノ)
お世話になっております。
三島でございます。
この日は今年の東京春祭に初参戦してきました。
フェスだぜ!
来日歌手が多いとテンション上がりますね。
本公演はオールドイツ歌曲です。
ありがたい!
オペラアリアを歌うことと同じくらい歌曲も大変ですよね。
舐められがちな歌曲ですが各々異なる美しさと難しさがあります。
昨年3月に来日したワルトラウト・マイヤーが素晴らしいことをおっしゃっているのでリンクを貼ります。
(インタビュー↓)
この公演の演目はシューベルト先生、シューマン先生、そしてシュトラウスおじいちゃんの歌曲でした。
三大Sですね。
それでは感想いってみよー。
(以下全て敬称略)
全体的に
ソプラノのルイテンはブラウンのベアトップのドレスで登場。ボトムスのチュールがふわふわで可愛かったです。丈がふくらはぎ途中くらいまで隠れる長さでした。靴は黒のピンヒール。着替えなしです。
とても柔らかく歌う方でした。ソニア・ヨンチェヴァタイプだと思っていたので第一声を聞いて驚きました。柔らかい声の持ち主です。その声に乗っかるドイツ語の発音が心地よかったです。
声量はあまりないですが響きが安定しているので特に問題はありませんでした。声の大きさは響きの質でなんとでもなりますね。小ホールでの公演なので大きな声で歌う必要もないのである程度調節していたのかもしれません。
高音はとても軽く出せる方でフワッと天井に舞うような声に感動がありました。力まずに高音を出すことができるのでいわゆるピアニッシモの技術は大変素晴らしかったです。逆にフォルテで出す高音は力強さはありますが、音が喉にへばりついているように聞こえてしまい抜けるような音ではありませんでした。
ルイテンの一番の売りはブレスの長さなのかなと思いました。基本的には言葉に声が左右されないので無駄に息を浪費していなかったと思います。フレーズの息の流れが一定でとても美しかったです。特に後半のシュトラウスの歌曲たちはテンポをどんどん落としていってましたが、それでも息が続きます。息継ぎも上手でした。どこで吸ったか気づかないことが多かったです。
・ピアニッシモができる
・ブレスの場所がわからない
歌手の技術力を判断する上で重要なこと(私的)ののうち上記2つをお持ちの方でした。
ということはだいぶ上手な歌手だということです。歩み寄った感想を書くのであれば本領を発揮できなかったのではないかなあというところです。島国までありがとう。
しかし、ここまで書いたことは全体を平均した感想であり、曲ごと(曲集ごと)にみていくと差があります。出来栄えの差が激しいです。というのが正直な感想です。
ピアノのトム・ヤンセンは紙の楽譜ではなくタブレット端末を使用していました。以上です。
他は曲ごとの感想に入れ込みます。
では曲ごとの感想を一言二言書いて終わりにします。
(全曲の感想ではありません。)
シューベルト
「Im Frühling(春に)」の第一声が軽やかでした。柔らかい声が心地よかったです。巻き舌が自然なのが印象に残っています。単語の中に組み込まれたrの音で、「巻っまっせー!!!」のような勢いや悪目立ちがなかったです。本人からすれば普通なのでしょうけれど私は感動しました。
高音を軽く上げられることは素晴らしいのですが、”Und sie im Himmel sah”の部分(と似たような音型のとき)の高音が軽すぎちゃって間違えちゃったのか、もしくはかろうじて辿り着いて出た音のように聞こえました。先に書いてしまいますがシューベルト2曲がハイライトです。
「Viola(すみれ)」は出だしの”Schneeglöcklein, o Schneeglöcklein”が美しい。ちょっとした寂しさや切なさを味わえる声だった。「,」の部分が切りすぎないけれど「,」があるのがわかるように歌っていました。”Schneeglöcklein”に挟まれている”o”の扱いがとても綺麗でした。こういう部分が無駄に強調されないのが素敵ですよね。音楽の流れの綺麗さが一番際立っていました。約13分が長く感じず曲の中での移り変わりを楽しめました。技術的に気になるところがほぼなく良い仕上がりでした。
シューマン
「Dichterliebe(詩人の恋)」
ルイテンは低音が安定しない。しかし「詩人の恋」には低音が多い。五線の下にも潜り込んじゃうので相性が悪いです。合う・合わないってあんまり好きな表現ではありませんが、はっきりいえば合っていないです。低音を出すときに胸あたりまで落として歌うときとほぼ中音域の位置と同じところで歌うときと2パターンあり、強弱や言葉の意味などで変えているのかなと思えなくもないですが、響きが統一されないストレスがありました。
ルイテンの柔かな声の響きを活かしてほしいので、あまり落としすぎも良くないですが、落とさないとスカスカになってしまうのが困りどころですね。逆に軽い高音を聞かせられる部分が少ないのでなぜ演奏したか知りませんが、ルイテンの良さを活かせない、損をするような選曲です。
有名なドイツ歌曲の一つであり曲集の一曲目でありと何かとハードルの高い「Im wunderschönen Monat Mai(美しい月、五月に)」は印象に残らない歌唱でした。もっと仕上がった感じで歌うのかと思いましたが普通だった。好調な出だしとは言い難いけれど悪くはなかったと思います。高らかに歌いすぎるのも陰湿すぎるのも違うし難しい曲です。有名なので客席の求めるも必然的に高くなりと思いますし。大変だ!
3曲目「Die Rose, die Lilie, die Taube(バラ、百合、鳩)」は単語の強調がわかりやすく、”Die Kleine””die Feine”などはわかりやすいアクセントをつけて歌っており聞き取りやすかったです。早口言葉だからメリハリがないと流れますよね。
進むにつれて譜面を見る頻度が増えていきこちらも気が休まらなかったです。曲の完成度も落ちてきた気がします。暗譜で歌うって大事ですね。急な代役や曲変更でない限り譜面は取った方が良い。というか取って。
ピアノ伴奏は歌があるときはピッタリ寄り添うような演奏でした。見せ場のような部分では真面目に真面目に演奏されていたような気がします。(なのでプログラム後半のシュトラウスが乗り切らない。)
曲が進むに連れて表情が変わっていき、これが一つの曲集として成り立っていることが伝わりました。特に最後のピアノの後奏ではルイテンの何かを(多分棺)見送るような表情が印象に残っています。
シュトラウス
どうも、リヒャルトのお時間です。
シュトラウスの歌曲はアンコール含めて10曲歌いました。つまり過労です。アンコールは喉が疲れ切っていて歌ってもらえて嬉しい反面申し訳なくもなりました。歌だけでなくピアノも疲労困憊でした。お疲れ様です。
先にアンコールの話です。「Morgen!」「Zueignung」「Die Nacht」を歌いました。全部シュトラウス!そしてスーパー王道!「Morgen!」や「Die Nacht」はルイテンがどんどんテンポを落としていくのでそれに合わせたいような。しかし、テンポを戻したいようなはっきりしない伴奏でした。何がなんだかわからなくなります。特に「Morgen!」の後奏は音に伸びがなく途中で演奏をやめたのかと思ったら続いているような感じでした。
Mädchenblumen:乙女の花
「Kornblumen(矢車菊)」は登場して客席が拍手しているなかで、ヤンセンが最初の音の鍵盤を押して音を教えてあけるという隠れ技でした。拍手の中で把握できるの強いなあと思いましたがピアノの近くにいれば聞こえるか。歌の最初の音がとても柔らかかったです。スカーン!と抜けるように歌うイメージがあったので新しい発見になりました。
前半のシューベルトの曲たちとは異なり大きく息を吸うのが気になりました。後半にいくに連れて若干失速気味でしたが、だんだん遅くするのが好きなのでしょうか。ピアノがずっと歌の様子を伺っているというか張り付いている様子が面白かった。
“Dir wird so wohl in ihrer Nähe”部分の歌とピアノの追いかけっこでピアノの音がしっかり聞こえなかったです。でも、曲の最後のピアノの音が良かったです。最後のピアノの音がまさにお花のようで可愛かったです。そんな柔らかい音がでるものかと。
「Mohnblumen(けしの花)」は張り上げすぎない高音が心地よかったです。変に感情を込めたりお芝居したりせずあっさりした歌い方をしており大変好みでした。
「Wasserrose(睡蓮)」の出だしのピアノは演奏したシュトラウスの曲の中で一番綺麗でした。しかし、”〜sich sehnet von ferne”のピアノの音が起き上がってこない。そんなに控えめでいいの?というような音です。個人的にはもっと主張してほしいなあと思いました。エモーショナルな演奏よりしっとり弾く方が得意なのかな、と思いました。
歌は“und auf Erden gefangen”の低音がきれいでした。全部この綺麗さで歌ってくれたら他の曲ももっと良く聞こえたと思います。
4 letzte Lieder:四つの最後の歌
このお二人でシュトラウス特化型のCDをリリースされているようです。(日本未発売とのこと。)そちらにもしっかり収録されているこの4曲。オーケストラ伴奏ではなくピアノ伴奏でリリースしているのは推せます。この歌をピアノ伴奏で収録している人はとりあえず好きです。
ボニーとマルコム↓
来日予定のグリゴリアン↓
「Frühling(春)」は出だしのピアノのインパクトが薄くこの先が不安になりました。歌は前半よりも低音が安定していたのは嬉しかったですが、ピアノ同様インパクトが薄く、言葉が全てひっこんでしまっている感じが気になりました。
「September(九月)」に関しては勝手に後奏のホルンが主役だと思っています。なので後奏死ぬほど大事です。歌は前座です。綺麗に弾いてはくれましたがインテンポ過ぎるのでさくさく進んじゃう感じが情緒がなくてあまり好感を持てませんでした。歌は最後の”müdgewordnen”の三連符が流れ気味だったのが気になりました。あれ?三連符どこいった?と思いました。その後の”Augen zu”(歌詞の入れ方変えてたけれど)は息の持ちが良かったです。
「Beim Schlafengehen(眠りにつくとき)」は出だしのピアノの音は好きだったけれど”um im Zauberkreis der Nacht”の魔法をかける音(と勝手に呼んでいる)が全然聞こえなかったのがショック。このしっとりした曲の中で流れ星のように入ってくる音が大好きなんだが?歌は”will in freien Flügen schweben”が不安定だし声が伸びなかったです。羽ばたけと言っているので飛んでくれ、羽ばたいてくれ。お願いだ。
「Im Abendrot(夕映のなかで)」は声の疲労感がすごくてかなり力で歌っていました。伸びやかにというよりかは壁打ちのような声です。最初のシューベルトの曲たちの感じでお願いします。ここまで散々歌った後に歌う歌ではないよね。しんどすぎるぜ。
感想以上です。
オペラ一作品より体力のいる曲たちです。盛りだくさんとはこういうことですね。
疲れは見えたもののこの曲たちを完走したことはすごいです。
シュトラウスおじいちゃんの曲たちの伴奏をしてくれることにありがとう。最大のありがとう。
終演後はサイン会が開催されていたのでちゃっかり参加しました。
生まれて初めてサイン会なるものに参加。
ルイセンのキラキラお目目が美しすぎたし、ヤンセンが「日本の聴衆は素晴らしい!(英語)」と何回も繰り返してたのが笑った。「どのあたりが?」と聞けばよかったです。
インタビューなのでそのように発言している来日アーティストは多いですが、実際に本人の口から聞くと笑える。
ちなみに、サインは一人一つとのことでした。
スタッフさんに目の前で注意されながらも3つサインをもらうご夫婦(かな?)の図太さを見習いたい。
私はルールを守りました。
おしまい。